“点”を“線”にするブランド体験。 SEE/SAW 『Beautiful Impression Days 2026』
松尾 幸治
form and craft
“自分という花を、咲かせよう。”
SEE/SAWの「Beautiful Impression Days 2026」は、国際女性デーを象徴するミモザを起点に、自分らしい美しさや生き方へ光を当てるブランドキャンペーンです。
限定アイテムを届ける短期的な視点と、ブランドの言葉を育てていく長期的な視座。その両方を行き来しながら、パッケージ、キービジュアル、コンテンツ、Web、SNSはどのようにひとつの体験へ束ねられていったのか。form and craftの松尾幸治さんに、その設計と思考のプロセスを伺いました。
“選ぶこと”が難しい時代に
ブランドの魅力をどう届けるか
―― form and craftさんは、SEE/SAWのブランド立ち上げ当初から、さまざまなデザインに携わってこられたと伺いました。今回の「Beautiful Impression Days」は、どのように始まったプロジェクトだったのでしょうか。
SEE/SAW(シーソー)は、“心を奪う、髪になる。印象から美しい人へ”をコンセプトに、ヘアデザインの美しさを引き立てながら、印象を高めることにこだわった、ヘアサロン専売のヘアコスメブランドです。
form and craftは、ブランド立ち上げ当初から、ブランドづくりにおけるさまざまなデザインの企画・制作に携わってきました。
今回ご紹介する「Beautiful Impression Days」は、SEE/SAWを展開するタカラベルモント(株)のLebeLチームと、ブランドに長く向き合う中で見えてきた課題から生まれたプロジェクトです。
―― その課題とは、具体的にはどのようなものですか?
SEE/SAWが誕生した2018年。ヘアサロンには、膨大な数のヘアケア製品が並んでいました。
補修アプローチや機能はそれぞれ異なるものの、その違いを理解し、自分に合う製品と出会うことは簡単ではありません。生活者にとっても、ヘアデザイナーにとっても、「選ぶこと」そのものが難しくなっていた時代でした。
一方で、たくさんの豊かさに囲まれた生活者やヘアデザイナーの価値観も多様化し、ブランドを選ぶ理由も一つではなくなっていきました。
髪の艶や質感だけでなく、香り、ビジュアル、パッケージ、ブランドの思想や行動など、人それぞれが異なる価値に魅力を感じるようになっていたのだと思います。
だからこそ私たちは、画一的なメッセージを押し付けるのではなく、お客様一人ひとりが、多様な側面からSEE/SAWの魅力を感じられるコミュニケーションをつくる必要があると考えました。
form and craftは、「ビジョンから、はじめる。」という価値観を大切にしています。
目の前の制作物だけではなく、そのブランドがどんな未来を目指しているのかを理解することからはじめる。その視点が、プロジェクトそのものを大きく育てていくことにつながっていくと思っています。
ブランドを選ぶ
“もうひとつの理由”をつくる
―― そうした課題意識の中で生まれた「Beautiful Impression Days」は、どのような役割を持つ取り組みなのでしょうか。
Beautiful Impression Daysは、SEE/SAWが、「髪だけでなく、女性たちの生き方まで輝かせるブランドでありたい」という思いから、毎年3月8日の「国際女性デー」に合わせて展開しているブランドキャンペーンです。
季節が変わり、新たな一歩を踏み出す春。今を美しく生きる女性たちに光を当てながら、自分らしい美しさや生き方について、ヘアデザイナーとSEE/SAWと一緒に考えていく取り組みです。
―― 製品の魅力だけでなく、ブランドの姿勢や思想まで伝えていくことを大切にされていたのですね。
SEE/SAWとつながることで、自分自身はもちろん、それ以外の誰かや未来のためにもなるかもしれない。そんな体験が、ブランドを選ぶ“もうひとつの理由”になっていくのではないかと考えました。
2022年にスタートしたこの取り組みは、「HAPPY WOMAN AWARD 2022 for SDGs」の女性応援ブランド賞を受賞。現在では、SEE/SAWの多面的な魅力を象徴する活動のひとつになっています。
“点”を“線”にする
キャンペーン全体を貫く設計
―― 今回のキャンペーンでは、具体的に動き出したときにどこから設計を始めましたか?
2025年の国際女性デーには、ELLEと共に、渋谷サクラステージでPOP UPイベントを開催。たくさんの女性たちとアクションを共にすることができました。
そして2026年。さらにその輪を広げていくために、国際女性デーを象徴する花・ミモザをキーにした香りの限定アイテム「Spring Note Mimosa」の発売が決まっていました。今回のコミュニケーションでは、この限定アイテムをキードライバーとして設計しています。
お客様は、ヘアサロンを中心に、限定の香り、使い心地、仕上がり、ビジュアル、読み物、ディスプレイ、Web、SNSなど、さまざまなタッチポイントを通じてSEE/SAWと出会います。それぞれが単なる販促物ではなく、製品の魅力や思想を五感で感じながら、ブランドを好きになってもらうための体験になるよう、コミュニケーション全体を組み立てています。
―― 多くの接点を束ねていくうえで、最初に軸になるものが必要となりそうですね。
そこで、まず決めたのが、キャンペーン全体を貫くコンセプトワードです。
製品、ビジュアル、ディスプレイ、Web、SNSなど、多岐にわたるアウトプットがバラバラな“点”にならず、Beautiful Impression Days 2026という一本の“大きな線”として見えていく。そのための“旗”のような存在です。
点を線にする。そして、なるべく美しく、なるべく役に立つものをつくりたいと意識していました。
“咲く”というイメージに
たどり着くまで
―― 短期的な販促だけではなく、ブランドはどう捉えてきましたか?
Beautiful Impression Daysのコンセプトワードを考える時に大切にしたのは、キードライバーである限定アイテムの存在と、SEE/SAWの思いを伝えるバランスです。
限定アイテムを売る短期的な視点も大切ですが、一年に一度、ブランドの言葉を伝えて、ブランドのことを好きになってもらう。未来の顧客をつくっていく長期的な視座をもつ取り組みでもあると考えています。
春、新しいはじまりの季節に、国際女性デーを象徴するミモザの花を感じながら、女性たちの背中をそっと押す。
そんな情景とメッセージが混ざり、SEE/SAWらしい視点でどう表現できるだろうか。そんな対話を重ねる中で、少しずつ浮かび上がってきたのが、「咲く」というイメージでした。
―― そこから、「咲く」というイメージにつながっていったのですね。
花が咲くこと。自分らしさがひらくこと。自分自身のタイミングで、自分らしく変化していくこと。
ミモザという花の象徴と、SEE/SAWが大切にしてきた“印象から美しい人へ”という思想が、そこで重なった気がしました。
Beautiful Impression Days 2026のコンセプトワードは、「TIME TO BLOOM」。
“自分という花を、咲かせよう。”
この言葉には、背中を強く押すのではなく、それぞれのペースで、自分らしく花開いていけたらいい、という願いを込めています。
春の“高揚感”と“静けさ”
デザインのバランスを探る
―― コンセプトが決まったあと、最初に着手したのはどの部分でしたか?
Beautiful Impression Daysは、弊社のプロジェクトの中でも、パッケージからプロモーションまで、特に制作物の幅が広い取り組みです。プリント、デジタル、SNS、店頭ツール、空間演出など、生活者との接点も多岐にわたります。
さらに、それぞれの制作物は役割も展開タイミングも異なります。だからこそ、どのタッチポイントからSEE/SAWに触れても、最終的に同じ世界観へたどり着けるように、まずは“基本デザイン”となるルールや制約を設計することを大切にしています。
今回、最初に着手したのは、生産スケジュールが決まっているパッケージデザインでした。
キーとなるのは、国際女性デーを象徴する花・ミモザ。そして、香水発想で設計された複雑な香り。コンセプトワードの「TIME TO BLOOM」。
レギュラーアイテムの静かな世界観をベースにしながら、“春の限定感”をどう立ち上げるか。タイポグラフィー、カラー、イラスト、余白など、さまざまな要素を組み替えながら、トライ&エラーを繰り返していきました。
―― “春らしさ”を形にするほど、SEE/SAWらしさとのバランスも難しくなりそうです。
当初は、ミモザらしい華やかさを強く打ち出した案もありました。ただ、装飾性が強くなるほど、SEE/SAWらしい静けさや余白感から少し離れてしまう感覚がありました。最終的には、「高揚感はあるけれど、静か」というバランスを目指しています。
また、立体物のデザインでは、フィジカルで検証することを大切にしています。
実際に色水をつくってボトルを着色したり、紙を切って個装箱を組み立てたり、箔押しをインレタで試したり。画面上だけで思考するよりも、簡単なラフでも実際に立体にした方が、「こっちの方がたたずまいがいい」と直感的に判断できることが多いからです。
そうしてたどり着いたのが、黄色と緑色のバイカラー案でした。
レギュラーアイテムの無彩色の世界から、有彩色へ移り変わるだけで、春の高揚感や「TIME TO BLOOM」の空気感を自然に感じられる。さらに、後に展開されるビジュアルや空間演出、Web、SNSにも広げやすい、展開力のある基本デザインになったと思います。
“素敵だな”という直感をつくる
キービジュアルの設計
―― このキャンペーンではビジュアルがとても印象的です。何を大切にしていましたか?
国際女性デーを象徴する花・ミモザを持ったモデルビジュアルは、年に一度、キービジュアルを刷新するタイミングで撮影しています。
SEE/SAWのキービジュアルで意識しているのは、ヘアのきれいさに留まらず、美しい人そのものを語ることです。
毎年、時代の空気感や移ろいに反応しながら、人の心が変わっていくように、SEE/SAWが届ける女性像も、その年ごとに少しずつ変化していく。そんな考えを大切にしています。
まずはシンプルに、「素敵だな」と直感的に感じてもらうこと。そして後から、その背景にある思想やストーリーを知り、さらに好きになってもらうこと。そんな体験設計を意識しています。
そのための撮影手法やチームづくりは、広告というよりファッション・シューティングに近いかもしれません。
撮影前には、LebeLチームと何度も対話を重ねます。どんな女性像を描きたいのか。今年のSEE/SAWは、どんなムードなのか。抽象的な言葉も多いですが、その擦り合わせを丁寧に行うことで、現場での判断軸を共有していきます。
一方で、現場には“余白”も必要だと思っています。
―― 事前に丁寧にすり合わせながら、現場には余白も残しているのですね。
予測できることは十分に対話を重ねて準備しますが、当日、撮影現場でクリエイティブ・ジャンプできる余白は、このチームには必要だと思っています。コラボレーターのフォトグラファー 中村和孝さん、スタイリスト 飯田珠緒さん、クリエイティブディレクションにも深く関わるヘア&メイク中澤保人さん、第一線で活躍されているみなさんが現場でイキイキできる、「1 + 1 = 3」になるようなバトンの渡し方をするように心がけています。
ちなみに、毎年ひそかに緊張しているのが、季節外れのミモザの確保です。必要なタイミングで入手できず、海外から輸入されたものを取り寄せた年もありました。撮影当日、無事にミモザが届くと、毎回少しホッとします。
情緒と機能を行き来する
SEE/SAWらしいコンテンツ設計
―― コンテンツでは、どんな入口を用意したのですか?
Beautiful Impression Daysでは、大きく二つのコンテンツを制作しました。
一つは、自分らしい美しさや生き方に光を当てる情緒的な読み物「SEE/SAW’S STORY 2026 / TIME TO BLOOM」。
もう一つは、限定アイテムのある生活を具体的にイメージできる、製品寄りのコンテンツです。
ブランドを好きになる理由は、一つではありません。価値観に共感する人もいれば、香りや使い心地に惹かれる人もいる。だからこそ、情緒的な価値から製品体験まで、多面的に魅力を届けることを意識しました。
情緒コンテンツでは、「課題を埋める」ような情報設計ではなく、“誰に言葉を託したいか”を重視しました。
その時に思い浮かんだのが、過去にお仕事をご一緒したことのあるビューティライターのAYANAさんです。
AYANAさんのエッセイ『仕事美辞』『「美しい」のものさし』には、女性たちの弱さや強さ、優しさに寄り添う視点がありました。SNSを通じても、美しさについての対話を続けている姿勢に共感し、今回、エッセイから全体ライティングまでをお願いしました。
―― “誰に言葉を託すか”という視点が、とても印象的ですね。
一方、製品寄りのコンテンツでは、「ヘアサロンで会話が生まれること」を意識していました。
国際女性デー、ミモザの香り、春のヘアトラブル、限定アイテムを取り入れたヘアケアルーティンなど、多様なテーマを通して、生活者と製品がつながる接点を設計していきました。
情緒と機能。その両方を行き来できることが、SEE/SAWらしいブランド体験なのではないかと思っています。
単一のメッセージを強く届けるのではなく、さまざまな入り口からブランドに触れ、少しずつ好きになっていく。
Beautiful Impression Daysは、そんなコミュニケーションを目指したプロジェクトでした。
静けさの中に表情をつくる
グリッドと余白の設計
―― 媒体を横断するうえで、何を意識しましたか?
デジタル、プリント、パッケージ。フィールドが異なる複数のアイテムでも、グリッドシステムによって、同じ顔つきになるようにコントロールしています。
原則は、各ツールの最小単位を設定し、余白、文字、図版の関係をコントロールすることです。今回は、雑誌のような読後感を大切にしたかったので、文字と図版を等価に扱う関係を意識しています。
―― 余白や書体は、どのように考えましたか?
余白は、版面から文字や図版がこぼれそうな、少し緊張感のある重心どりをしています。
昔のトラディショナルな書物に見られるような余白に比べると、安心して読み進められるというより、どこか落ち着かなさが残る設計です。きれいに配置するだけで終わらないように、一見静かだけど、ページネーションしていく中で表情を感じられる誌面をつくるように意識しています。
書体は、本文にイワタ明朝体オールドを指定しています。起筆・終筆部分がチクチクしているつくりが特徴です。欧文は、同じ表情のEIKOを混植しています。
グリッドは、オフィシャルWebで指定していた設計をなるべく踏襲し、ブランドとキャンペーンのつながりも意識しています。
製品紹介を超えて伝える、
ブランドのふるまい
―― 製品の価値をいかにしてユーザーへ届けるか。そこにどれだけ拘っていたのかがわかりました。完成後、どのような手応えがありましたか?
Beautiful Impression Daysは、単なるシーズンプロモーションではなく、SEE/SAWというブランドの価値観を、生活者やヘアデザイナーと共有していくためのブランドプロモーションとして育ってきました。
2022年にスタートしたこの取り組みは、「HAPPY WOMAN AWARD 2022 for SDGs」を受賞。2025年には、ELLEと共に渋谷サクラステージでPOP UPイベントを開催するなど、コミュニケーションの輪が広がっています。
一方で、私たちがこのプロジェクトを通じて最も実感している成果は、“ブランドとの関係性の変化”です。
ヘアサロン専売品は、機能や仕上がりだけで比較されやすい市場でもあります。
その中で印象的だったのは、Beautiful Impression Daysをきっかけに、ヘアサロンのSNS投稿にも変化が生まれていったことでした。
単なる製品紹介ではなく、コンセプトや世界観、国際女性デーへの思いまで含めて発信してくださるサロンが少しずつ増えていったのです。
SEE/SAWとつながることで、製品だけではない豊かさを感じてもらえる。
ブランドは、つくって終わりではなく、一つひとつの言葉やふるまいを通して、長い時間をかけて、「このブランドが好き」と思ってくださる方との関係を育てていく。その積み重ねこそが、Beautiful Impression Daysの一番の成果なのではないかと思っています。
―― 最後に、Beautiful Impression Daysを続けてきたからこそ見えてきたことを聞かせてください。
かつて、AYANAさんから、Behaviorという言葉を受け取ったことがあります。そんな美しいふるまいのあるブランドを目指しています。
form and craftが大切にしている「ビジョンから、はじめる。」という価値観。
目の前の制作物をつくるだけではなく、ブランドがどんな未来を目指しているのかを理解し、そのビジョンを共につくり、育てていくこと。
Beautiful Impression Daysは、そんな“クリエイティブパートナー”としての在り方を、改めて実感したプロジェクトでもありました。
関係者のみなさま、ありがとうございました。
メンバークレジット
Beautiful Impression Days
アートディレクター:松尾 幸治(form and craft)
WEB アートディレクター:岡田 雄基(form and craft)
デザイナー:仁科 思織、須藤 希和子(form and craft)
ディベロッパー:山﨑 陽聖、古田 慎太郎(form and craft)
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フォトグラファー:草野 庸子*、三吉 杏奈*、遠藤 文香*、岡部 東京*
ライター:AYANA*、佐藤 有紗*
アートフラワー:保坂 安美(mimosa)
ビジュアル
ディレクション、ヘア&メイク:中澤保人、宮地恵子(macaroni coast)
フォトグラファー:中村 和孝*
スタイリスト:飯田 珠緒*
シネマトグラファー:森滝 進*
ビデオエディター:水上 大祐(RINKAKU)
ミュージック:難波 卓己*
モデル:Sarah Ferguson, Viktoria Lulko(Bravo Models)
*freelance
90日限定 全文公開中
2026.06.25
“点”を“線”にするブランド体験。 SEE/SAW 『Beautiful Impression Days 2026』