Design Story

前提を疑い、壊し、積み上げた 『クリエイティブアイランド中之島』サイトの制作プロセス

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大阪市の中心部、堂島川と土佐堀川にはさまれた水辺のエリア・中之島。美術館や図書館など複数の文化施設が点在する「中之島」。

運営側の伝えたいことを一度ほどき、ユーザーの興味からたどれるように組み替えた情報設計。実際に街を歩くことで見えてきた中之島の本当の価値。そして、推し案を手放しながら積み上げていったデザイン。

本記事では、「クリエイティブアイランド中之島」の情報設計とディレクションを担当したARUTEGA 平尾さん、コンセプト作りとデザインを手がけたとじーさんに、前提を疑い、壊しながら作り上げたリニューアルの裏側を伺いました。

文化が集まる場所を
どうひとつの体験にするか

インタビュイー:平尾 誠

―― クリエイティブアイランド中之島のサイトリニューアルは、
どのような背景から始まったのでしょうか。

大阪・中之島は、大阪市の中心部を流れる2つの川にはさまれた水辺のエリアです。
エリア内には複数の美術館や図書館などの文化施設が立ち並び、文化・経済の拠点として発展してきました。

そんな中之島を舞台に、アートやデザイン、文化芸術を軸に都市の魅力を高めていく取り組みが「クリエイティブアイランド中之島」。
この場所が持つ環境文脈を生かす活動やイベントを展開し、「創造的な実験島」として発信していくプロジェクトです。

今回のリニューアルの背景として、大きく分けると二つが挙げられます。

一つめはより魅力が伝わるよう中之島を象徴するビジュアルを落とし込みたいということ。
そして二つめは、各施設で開催されるイベント情報と、クリエイティブアイランド中之島独自の企画コンテンツが混在してしまっていること。
これにより企画の趣旨が伝わりづらくなっており、もっとわかりやすくしたいとのことでした。

文化が歩いてつながる島
その魅力を伝えるために

壊す①:前提条件

―― 中之島を象徴するビジュアルがとても印象的です。
どのようにサイトの方向性を定めていったのですか?

「中之島の空撮映像を、キービジュアルに使いたい。」
初めてのキックオフミーティングでクライアントにそう言われ、僕たちは少し困ってしまいました。

大阪府・中之島のイベント情報のメディアサイトリニューアル。
行政、企業、文化施設など、多くの利害関係者がいます。
「キービジュアルに使いたい」その映像は、上空からヘリで撮影した中之島の地形がはっきりわかる映像で、世界的に珍しい地形というのもあってのことでした。

せっかく上空から撮ったしキービジュアルに使いたい。
気持ちはよくわかりますが、その申し出を断ることから僕たちのプロジェクトが始まりました。

―― 「断った」のには、どういう意図があったのですか?

実際に足を運んでみて気づいたことがあったんです。
中之島はオフィスがある北浜から歩いて約15分。

初夏の晴れた昼下がり。中之島で過ごす人を、ゆったりと先入観のない状態で観察してみます。
まず気づかされたのは、来訪者層の幅広さでした。

―― 実際に街を歩いてみることで、空撮映像だけでは見えなかったものがあったんですね。
そこで見えてきた中之島らしさは、どのようなものでしたか。

「ベンチに座る老夫婦」
「手を繋ぐカップル」
「科学館に並ぶ家族連れや大学生」

属性が異なる施設が一つのエリアに集まっていることで、施設間のはしごをすれば半日いても楽しいな〜という印象でした。
ここから見えてくることがいくつかあります。

中之島の価値は、“島の形”ではありません。
文化と文化が、歩ける距離で横断していること。点在した文化を一日で体験できること。
つまり、この街の魅力はハードではなく“関係性”そのものにある。

先入観を持たないまま歩いたその街には、空撮では映らない魅力がある。
空撮動画をキービジュアルにすることにしっくりこなかったのも、直感ではなくはっきりとした論拠になりました。

伝える順番を変える
そこから見えたメディアの役割

壊す②:事業者側の「伝えたい」

―― 依頼側としては、取り組みの活動全体を知ってもらいたいという思いもあったと思います。
そこから、どのように情報の優先順位を整理していったのでしょうか。

多様な情報と訪問者。
そこに加えて、依頼主である運営母体は、活動の一部始終を知ってもらいたいと願うのは当然のことだと思います。

ただ、安直にセグメントするには、対象者が多すぎる。これには困りました。
何を印象付けるべきか。

『こっちを立たせるとあっちが立たない。。』

悩んでいた私に、とじーはこんなフレーズをくれました。
『これってアイドルみたいだと思っていてて〜』

んん?なるほど?
中之島は「必ず誰かの興味がある“推しごと”が集まったグループ」だと言います。

先に“推し”がいて、その推しを有するハコ推しになる。
気になるアイドルが先で、グループが後。

本プロジェクトでは関心ある“ジャンル”が先で、“中之島”は後なんだと。
まずは、点在する文化を際立たせ、その深部にいくと、根っこは中之島エリアの魅力につながっているという考え方です。

―― “中之島を好きになる”より前に、
“自分の興味のある文化に出会う”ことが入口になる、という捉え方ですね。

活動母体であるクリエイティブアイランド中之島実行委員会の存在は、最後の最後に知ってもらえればいい。
前提を壊してみたからこそ、伝える順番がシンプルになりました。

事業者や運営側が、活動自体を知ってもらいたいと願うあまりに、エンドユーザーへ伝える順番がチグハグになってしまうことは実はよくあります。この最初の設計がズレるとこの後のビジュアルデザインが大きくズレます。これを機に、運営側にのみ都合のいい情報を探し、優先順位を一気に下げることに。

そうして中之島というエリアを推すのではなく、“ジャンル”を接点に回遊できる設計に作り変えることにしました。

思考の流れをシンプルにまとめた提案資料

推し案を壊して積み上げた
デザインプロセス

インタビュイー:とじー

壊す③:自分の「正解」

―― 情報設計の方向性が定まったあと、デザインをどう進めたのか教えてください。

情報設計という「骨組み」が決まり、次はそこに肉付けをしていくデザインの工程です。
中之島を象徴するビジュアルとして、最初に強く思い浮かんだのは、「対話や発見」にフォーカスした案でした。

タイポグラフィが集まり、一つの塊になったビジュアル案

「発見が浮かんで一つの島になる。
文字がプカプカ浮遊するようなアニメーションをサイト全体で踏襲できたら面白そう」


たまたま熊本に遊びに行っていた時にこのアイデアが思い浮かびました。

熊本市現代美術館で開催されていた展示を見ているうちに、自分の頭の中で無意識に対話が始まっていることに気づきました。「へぇ」とか「そうなんや」とか、本当にちっぽけな感想が浮かんでくるような発見なのですが、その気づきが楽しい。

複数の「推しごと」が集まっている中之島は、この発見や対話がたくさん生まれている場所だと思いました。実際に中之島に足を運んだ時も、対話しながら展示を眺める人たちで溢れていて、発見を可視化することが、文化芸術の島である中之島にふさわしいなと。
「対話と発見の島」、ええやんとっても素敵。

ただ、この案は、決裁者の方々に提案する前の段階で一度ストップがかかります。

一緒に制作を進めていた事務局側のディレクターに見てもらったところ、過去の広報物で近いコンセプトがすでに使われていたことがわかりました。

くっそーマジか、という感じでした。

―― かなり手応えのあった案だったからこそ、悔しさもありそうです。
そこから、正式な提案に向けてどのように組み替えていったのでしょうか。

そこから、最初のアイデアをそのまま出すのではなく、表現の方向性を組み替えて、A案とB案を提案しました。

ガラッとビジュアルのトーンが変わったデザイン案

A案は、最初に考えていた「対話や発見」の要素を残しながら、伝え方を変えた案です。
そもそもビジュアルは必要か?という考えのもと、ファーストビューからすぐスクロールを促すレイアウトに変更し、「発見」は言葉で可視化するのではなく、吹き出しをデフォルメして浮遊させるビジュアルにしました。

B案では「文化の横断」をテーマにしました。
中之島を通して体験できる文化的キーワードを集めて結び、一つの島のかたちを抽象的に表現しています。中之島にはユーザーの興味・発見が集約されているので、その横断ができることを価値として伝えていこうと考えました。

正式に提案して選ばれたのは、後者のB案です。

普通ならここで「方向性が決まった、一安心」となるところ。
ですが私は、最初の「対話と発見」の案を決裁者に見せることなく手放すことになったので、うまく供養できず、「未練タラ子」さんになってしまいました。

未練がタラッタラ。タラ子さんです。
B案でデザインを進めていても、なんとなく頭の中に最初の案が思い浮かんでしまう。

―― それは、かなり未練が残ってそうですね。

今でも全然切り替えられていないです。なのでこの場で供養させてください🙏!

どれほど自分が「これだ!」と推していても、別の正解を模索することもあります。
これがデザインにおける最初の「破壊」です。

寄って、引いて、また壊す
デザインを成立させるための往復

壊す④:「マクロとミクロ」の視界

―― ビジュアルとしての強さと、
情報を届けるメディアとしての見やすさのバランスはどう探っていったのですか?

方向性が決まってからも、チューニングの連続。
私は普段、Illustratorでレイアウトの全体像を作り、それをFigmaに移して細部をアップデートしていく、という二段構えで制作しています。

というのも私にとってFigmaは細部に寄って見る「マクロ(寄り)のレンズ」。
対してIllustratorは全体を俯瞰して見る「ミクロ(引き)のレンズ」。
「何言ってるんや?」と思われるかもしれませんが(笑)、私にとってFigmaでの作業は、自分が画面の中に立っているような没入感があります。個別のカードやコンポーネントを作るにはいいのですが、一方で全体像が見えづらくなってしまうというちょっとしたジレンマも。

なのでIllustratorとFigmaを行き来することで、レンズを無理やり交換する。…のですが、このレンズ交換が全然うまくできない。
特に今回はビジュアルを重視したサイトと情報を届けるメディア、そのどちらにも振り切れない中で、全体を眺めては「ちぐはぐだな」と壊す。細部を詰めては「全体で見るとバランスが悪い」とまた壊す。

このマクロとミクロの視界を行き来するなかで、どちらのレンズもうまく使いこなせず、積み上げては壊す作業を繰り返しました。

デザインを支えた地道な調整

壊す⑤:デザイン

―― 既存の文脈を引き継ぎながら、新しいメディアとして成立させるのは大変だったのでは?

実際に形にしていくプロセスの中で、自分にかけていた言葉は「むずい」「見づらい」「ださい」。

例えばイベント情報では、各施設から集まるアイキャッチ画像はサイズも色味もバラバラ。そこにカテゴリーやタグ、スポット情報が紐付きます。特にスマホの狭い画面幅で、これらの情報をごちゃつかせず、いかに心地いい秩序を作るか。うーん、めちゃくちゃむずい。

だからこそ、コーディングをお願いした820 Enterpriseの小島さんにデザインを見せた際、「見やすいね」と言ってもらえたときは、「ありがたき幸せ!」と報われた思いでした。

―― 情報の見やすさだけでなく、キービジュアルのトーンもかなり調整されたのでしょうか。

ビジュアルも一歩ずつ調整しながら進めました。

ユーザーやこれまでのプロジェクトの文脈を汲み取ると、一番最初に形にしたものは色やコントラストが高く、エッジが立ちすぎているなと。情報の多さも相まって全ての要素が主張が強すぎると感じました。

調整前のデザイン:たしかに色の印象が強い

そしてシンプルな形の組み合わせは、常にダサさと隣り合わせ。そこでこの強いトーンを一度壊しました。

視覚的に柔らかい奥行きを足しながら、より綺麗な形を目指して調整しては比較を延々と繰り返す。その足跡として、Figma上には大量のアートボードがずらっと並んでいたのですが、どこが変わったのか他の人にはわからないかもしれません。

この記事を読んでくださっている方にとっては、もしかすると こうした作業レベルの話より、もっと「コンセプトからどうビジュアルに起こしたか」といった、太い幹から枝へ広がるような話が期待されているのかもしれません。ごめんなさい。面白くないかも。

ですが、今回このインタビューにあたり、四苦八苦したプロセスをありのままに伝えようとすると、こうした細部話に行き着いてしまいました。

「これまではこうだった」と「これからこうしていく」という制約が交差するメディアのリニューアルにおいて、こうした地道な調整の一つひとつでその制約をクリアしていく戦い方もあるからです。

―― 試行錯誤を経て、最終的にどんな中之島らしさが残ったと感じていますか?

「芸術文化との距離の近さ」だと思っています。

中之島には美術館や図書館、科学館など異なるジャンルの文化施設が歩ける距離に共存しています。だからこそ、ひとつの目的で訪れた人が、その“ついで”に別の文化に自然と触れられる。そうした偶発的な横断体験こそが、中之島らしさなのではと感じました。

自分の好きなジャンルに気軽にアクセスでき、その先で別の文化とも出会える。その体験を情報設計とビジュアルで混じり気なく表現できたことで、中之島らしさが自然と残ったのではないかと思います。

壊した先に見えてきた
“中之島”のこれから

―― 完成後、どんな影響があったか教えてください。

平尾:サイトを新しくしてからまだ3ヶ月ほどしか経っておらず、大きな変化は体感としては感じないのが正直なところです。ただ、運営内部に、シティプロモーションの『モノサシ』が出来たことはいい影響だと思います。
これからはInstagram と足並みを揃えたり、サイトを起点にVIが哲学としても浸透することを期待しています。

―― このプロジェクトを終えて、当メディアの役割はどのように変わったと感じていますか?

平尾:想定外の出会いを生むきっかけを作れたと感じています。
スポンサー企業の存在感を控えたことで、文化と芸術を前に立たせることが出来ました。更新されていくイベントの数も多いです。情報まとめサイトのような役割から、サイトでもイベントの追体験を回遊できる“発見を目的にできるサイト”になったと感じます。

―― 最後に、このサイトが公開されたあと、中之島が、どのような場所として育っていってほしいですか?

平尾:大阪生まれで大阪在住の身として、他府県に負けない新しい場所になってほしいと思っています。大阪は古い街で、“ゴチャつきあるカオスみ”が独特の良さだと個人的に考えています。
ただその一方で、新しいものもカオスの一部として巻き取られてしまう。だから文化芸術の発信拠点としての中之島を、大阪から独立させて認知を引き上げられれば。そんなふうに思います。

とじー:個人的に、水がある場所には自然と文化が宿るものだと思っています。実際に川や港の周辺から文化が生まれ、それが街の魅力や経済の活性化につながっている事例は多いです。
中之島も、単に施設が集まっている場所ではなく、文化芸術やクリエイティブを起点に、新しい発見や交流が生まれていく場所になれるポテンシャルがあると感じています。その一つのモデルのような存在へ育っていったら嬉しいです。

メンバークレジット

プロダクション -graf
アカウントプランナー:村川 晃一郎(graf)
ディレクション:平尾 誠 (ARUTEGA Inc.
アートディレクション、デザイン:とじー(ARUTEGA Inc.
開発:小島 渉(820 Enterprise)

90日限定 全文公開中

2026.05.31

前提を疑い、壊し、積み上げた 『クリエイティブアイランド中之島』サイトの制作プロセス

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