静かな森の、もうひとつの物語。 『パティスリー GIN NO MORI ルディック』 ブランドの世界観をWEB体験へ翻訳するまで
くぼたえみ
田渕 将吾
「パティスリー GIN NO MORI」の世界を受け継ぎながら、その地下に広がる“秘密の隠れ家”として生まれた姉妹ブランド「パティスリー GIN NO MORI ルディック」。
自由に伸びる銀色の根っこ、夜な夜なお菓子づくりを楽しむチェスとナッツ、組み合わせることで絵柄がつながる小箱。「遊び心」をテーマに生まれたブランドの世界観を、どのようにWeb体験へ翻訳していったのか。
ブランド全体のクリエイティブを手がけた電通のくぼたえみさんと、その世界観をWeb体験へと翻訳したS5 Studios田渕将吾さんに、制作のプロセスを伺いました。
メインブランドを受け継ぐ
“地下の隠れ家”の世界観
インタビュイー:くぼたえみ
―― まず、「パティスリー GIN NO MORI ルディック」は、どのようなブランドとして始まったのでしょうか。
「パティスリー GIN NO MORI ルディック」は、高価格帯のスイーツブランド「パティスリー GIN NO MORI」の姉妹ブランドとして、2026年春にデビューしました。
メインブランドの世界観を受け継ぎながらも、より自由で遊び心のある体験を提供する新ブランドです。
ブランド名の「ルディック」は、フランス語で“遊び心”という意味です。
王道で静謐なメインブランドに対し、プレイフルでカラフルな魅力を持つルディック。姉妹ブランドだからまったく別の世界をつくるのではなく、同じ物語の中にありながら、もうひとつの顔を持つブランドとして考えていきました。
ルディックの舞台は、パティスリーの地下に広がる秘密の隠れ家です。
地上には銀色の木が生い茂るパティスリー(=メインブランド)があり、その地下には銀色の根が自由に伸びるもうひとつの世界(=ルディック)が広がっています。
リスのパティシエであるチェスとナッツは、昼間はパティスリーでクッキーを焼き、閉店後は地下の隠れ家で夜な夜なお菓子作りの実験を楽しんでいるのです。
物語をあらゆるクリエイティブへ
“遊び心”をすべての接点に宿す
―― 「地下の秘密の隠れ家」という物語は、具体的なデザインへどのように展開していったのでしょうか。
すべてのタッチポイントで、チェスとナッツのもうひとつの物語を感じられるよう、空間デザイン、キービジュアル、パッケージなど、一貫したクリエイティブ開発を行いました。
伸びやかな曲線を描くシルバーの根っこは、自由と遊び心の象徴です。
店舗デザインは鮮やかなターコイズブルーを基調とし、中心にアートピースのようなシルバーの根っこを配置することで、まるで本当に地下の隠れ家を訪れたような空間を目指しました。
様々な媒体に使用するキービジュアルも、ブランドを象徴する重要な要素として開発しています。
空間デザインとも連動した、シルバーの根っこが張り巡らされたブルーの地下空間では、チェスとナッツたちが駆け回っています。そこへルディックを象徴するカラフルなパッケージたちを散りばめ、秘密の隠れ家らしい賑やかさと遊び心を表現しました。
―― 商品そのものにも、体験としての仕掛けがあるそうですね。
商品パッケージには、ブランドの精神である「遊び心」を感じてもらえるように、小箱同士のイラストが必ずつながる仕掛けを入れています。
専用のギフトボックスを使えば、選んだ小箱の組み合わせによって、あなただけの森の絵画が完成します。
単にきれいなパッケージをつくるだけではなく、選んだり、並べたり、組み合わせたりする時間そのものが、ルディックらしい体験になればと考えました。
―― その世界観を届ける中で、Webサイトにはどんな役割を持たせようと考えていましたか。
Webサイトは、国内外のお客様がいつでもアクセスできるブランドの入口であり、プレゼンテーションの場でもあります。
制作にあたり、ブランドサイトで実現したかったことは主に3つありました。
ひとつ目は、地下に広がるチェスとナッツの物語へ没入できること。
ふたつ目は、メインブランドとは違う、ルディックならではの遊び心を感じられること。
そして3つ目は、パッケージに施した「つながる仕掛け」を、Web上でも疑似体験できることです。
ブランドの世界観と商品体験を、どのようにWeb上で表現するか。それが今回のプロジェクトにおける大きなテーマでした。
ブランドの持つ魅力を、
サイト体験に翻訳
―― Webの世界観を設計するうえで、メインブランドとの違いはどのように表現したのでしょうか。
ルディックのWebサイトを考える上で大切にしたかったのは、ブランドの持つ「遊び心」の精神と、「地下の秘密の隠れ家」というコンセプトを、どう魅力的なWeb体験へ翻訳するかということでした。
ブランドの世界観をWebならではの体験へと拡張するために、前回の「パティスリー GIN NO MORI」のWebサイト制作でもご一緒した田渕さんに、今回もお声がけさせていただきました。
意識したのは、「ルディックならでは」の表現を突き詰めることです。
メインブランドが森の中でゆったりと過ごす静かな時間を表現しているのに対し、ルディックでは地下の隠れ家で繰り広げられる実験や遊び心を表現したい。
その違いを、キービジュアルだけでなくサイト全体の構成からも感じてもらいたいと思いました。
メインブランドがセンター合わせの整然としたレイアウトであるのに対し、ルディックは地下を自由に伸びる根っこのイメージに合わせ、サイト全体をジグザグと視線が移動する構成にしています。
象徴的なのが、画面を斜めに横切るシルバーの根っこです。
単なる装飾ではなく、視線を自然に誘導しながら、ルディックらしい自由さや大胆さ、冒険心を表現する役割も持たせています。
パティスリー GIN NO MORI
https://ginnomori.info/patisserie/
インタビュイー:田渕 将吾
―― そのビジュアルを最初に見たとき、田渕さんはどのような可能性を感じましたか。
最初にキービジュアルやイラストを見せてもらったとき、すでにブランドの世界観はかなり強く完成していました。
地下に伸びるシルバーの根っこや、そこで自由に遊ぶチェスとナッツ、カラフルなパッケージ。静止画の時点で情報量も魅力も十分にある。
だからこそ、Webだからといって何か派手な演出を付け加えるのではなく、この世界を壊さずに、画面の中で少しだけ時間が流れているようにできないかと考えました。
―― 「少しだけ時間が流れる」というのは、具体的にはどのような動きなのでしょうか。
僕がインタラクションを考えるとき、すべてを大きく動かすことはあまりしません。
今回も、チェスやナッツの首や尻尾、腕などをパーツに分けてほんの少し揺らす。蝶の羽を動かす。空の星をときどき瞬かせる。背景にある根っこは、スクロールに対して前景と後景で少しずつ速度を変える。
そうした小さな動きを一つひとつ設計していきました。
一つひとつはかなり小さな動きです。
ただ、それらが画面のいろいろな場所で異なるタイミングで起こることで、「一枚のイラストを見ている」という感覚から、「この地下の世界は、今もどこかで動き続けている」という感覚へ変わっていく。
ルディックの場合は、そのくらいの距離感が合っていると思いました。
メインブランドの「パティスリー GIN NO MORI」には、森の中でゆったり過ごすような静かな時間があります。一方、地下のルディックでは、チェスとナッツが夜な夜なお菓子づくりの実験をしている。
姉妹ブランドとして世界はつながっているけれど、流れている時間は少し違う。
その違いを、レイアウトだけではなくWeb上の動きからも感じられるようにしたかったんです。
心地よさを追求
調整を重ねたインタラクション
―― スクロールの演出も特徴的ですが、最初から現在の形を想定していたのでしょうか。
実は、最初は違う設計でした。
今回のビジュアルは、一枚の中に小さな出来事がたくさん描き込まれています。そのまま上から下へ通り過ぎてしまうと、一つひとつのシーンを見る時間が十分に生まれないのではないかと考えました。
そこで最初のカンプでは、一部のシーンが画面中央まで来るとスクロールを一度止め、操作を続けることで吹き出しだけが切り替わり、その内容を読み終えてから次の場面へ進む設計にしていました。
静止画のカンプだけでは体験の良し悪しを判断しきれないので、実際にモックアップまでつくり、ブラウザ上でスクロールしながら検証しています。
―― 実際にブラウザで試してみて、印象が変わったのでしょうか。
触ってみると、想定していたほど気持ちよくありませんでした。
物語をじっくり見てもらうためにつくった“間”が、ユーザーにとっては「スクロールしているのに進まない」という引っかかりにもなっていたんです。
演出として成立させることよりも、サイト全体を気持ちよく巡れることのほうが、この世界には合っていると感じました。
そこで画面を強制的に止める仕組みはやめ、現在のようにスムースにスクロールできる構成へ変更しました。
その代わり、前後にある根っこの移動速度を変えたり、キャラクターや吹き出しが少し遅れて現れたりと、ページの流れを止めない範囲で視線を留める工夫を残しています。
―― 一度考えた演出を捨てるという判断も、インタラクション設計では大切なのでしょうか。
最初に立てたアイデアをそのまま実現することよりも、実際に触ったときにどう感じるかを優先することは大切にしています。
今回も、「ここでは立ち止まって見てほしい」という意図そのものは変わっていません。
ただ、それをユーザーの操作を止めることで実現するのではなく、動きの強弱や速度差によって自然に視線を導く方法へ切り替えました。
スクロールを物語のテンポとして扱うという考え方は同じでも、そのテンポをどうつくるかは、実際のブラウザ上で何度も試しながら判断していきました。
パッケージの魅力を
最大化させたホバー演出
インタビュイー:くぼたえみ
―― もうひとつ、Webで重要だったのが「ルディックコフレ」の小箱ですね。
看板商品であるルディックコフレの24種類の小箱は、どのように並べても絵柄がつながる設計になっています。
この仕掛けは商品そのものの魅力であると同時に、“遊び心”というブランドコンセプトを体現している存在でもあります。
そのためWebサイトでも、小箱を単なる商品写真として並べるのではなく、つながる楽しさや、発見の面白さが伝わる見せ方をしたいと思っていました。
そこで田渕さんに相談したところ、画像素材は静止画しかなかったのに、小箱たちがまるでその場で動いているように見せる表現を提案してくださったんです。
インタビュイー:田渕 将吾
―― 田渕さんは、この商品の面白さをWeb上でどのように再解釈したのでしょうか。
24種類の小箱は、単にパッケージのビジュアルがきれいということではなく、実際に箱を手に取り、並べ替えながら「ここもつながる」「こんな絵になるんだ」と発見していくところまで含めて商品の魅力だと思いました。
なのでWebサイトでも、完成した組み合わせを写真で見せるだけにはしたくありませんでした。
画面上に並んだ箱へマウスを重ねると、その中のひとつがくるりと回転する。側面が現れた瞬間に、隣の箱の正面と図柄がピタッとつながる。
そこで初めて、パッケージに仕込まれたルールをユーザー自身が発見できます。
説明文で「絵柄がつながります」と伝えることもできますが、Webであれば、その面白さそのものを触って理解してもらえる。
僕は、こういうところにデジタルならではの価値があると思っています。
リアルの商品体験をそのまま画面の中へ再現するのではなく、その商品の何が楽しいのかを考えて、Webに適した別の体験へ翻訳する。
今回のルディックでは、その考え方を象徴する仕掛けになりました。
少しずつ完成度を高めていく
エンジニアとのコミュニケーション
―― こうした細かなインタラクションは、どのように実装へ落とし込んでいったのでしょうか。
こうしたサイトをつくるときは、静止したデザインカンプをつくって終わりにはしていません。
どのパーツを分解するのか。どのくらいの角度で動かすのか。スクロールに対してどの速度でずれるのか。何が常に動き、何がユーザーの操作に反応するのか。
今回は各シーンごとに、そうした動きを細かく設計しました。
実際のフロントエンド開発を担当してくださったのは、Orunicaの高橋さんです。
動きの意図や数値、タイミングなどを共有しながら実装していただき、ブラウザ上で動いたものを一緒に確認しながら調整を重ねていきました。
―― 数値まで決めていても、実際に動かしてみないとわからない部分があるのでしょうか。
数値だけを決めれば、狙った体験になるわけではありません。
ほんの少し速いだけでもキャラクターが落ち着かなく見えたり、動きが大きすぎると元のイラストが持っていた品のよさがなくなったりします。
だから実際にブラウザで触りながら、「もう少し遅くしたい」「ここはもう少し弱くしたい」といった感覚的な部分まで、高橋さんとやり取りしながら詰めていきました。
―― そう考えると、インタラクションデザインは「動きを考える」だけの仕事ではなさそうですね。
そうですね。Webサイトのアートディレクションやインタラクションデザインは、画面上の見た目だけを決める仕事ではないと思っています。
ユーザーがどの順番で見て、どこで立ち止まり、どこに触れ、どんな小さな発見をするのか。
そこまで含めて設計し、それをエンジニアと一緒に実際のブラウザ上の体験へ落とし込んでいくことで、グラフィックとして存在していたルディックの「遊び心」が、見るものから、触れて体験するものへ変わっていく。
今回、一番取り組みたかったのはそこでした。
商品紹介を超えた、
“隠れ家に迷い込む体験”
インタビュイー:くぼたえみ
―― 2026年春のブランドデビュー以降、どのような反応がありましたか。
ルディックは2026年に大阪・心斎橋店、名古屋・栄店がオープンし、開店直後からSNSやテレビ、スイーツ専門メディアなどで数多く取り上げられました。10月には博多店の開店も予定されています。
制作者の立場として特に嬉しかったのは、24種類の小箱を自由に選び、組み合わせる体験に対して、多くの反響をいただけていることです。
パッケージ同士を並べることで絵柄がつながる仕掛けは、ビジュアルの美しさだけではなく、「誰に贈ろうか」「どんな組み合わせにしようか」と考える時間そのものを楽しんでいただくために設計したものでした。
実際に店頭で商品を並べながら組み合わせを考えてくださるお客様の様子や、SNSで楽しそうに投稿してくださる様子を見ると、お客様それぞれの楽しみ方を見つけていただけていることが何より嬉しいです。
―― Webサイトについては、完成してどのような手応えを感じていますか。
Webサイトにおいても、単なる情報発信の場ではなく、ブランド体験の場として機能させることができたと感じています。
今回のプロジェクトでは、ブランドの世界観をどこまでデジタル上で再現できるかが重要なテーマでした。
メインブランドのときと同様、ブランド全体の世界観を設計する立場と、それをWeb体験へ翻訳する立場とで、密に対話を重ねながら制作を進めることができました。
その結果、当初想像していた以上に魅力的な体験を実現できたと感じています。
―― 最後に、このプロジェクトを振り返って、改めてどんな場所をつくれたと思いますか。
私たちがつくりたかったのは、商品を紹介するWebサイトではなく、ルディックという世界に入り込む体験そのものでした。
お客様がサイトを訪れたときに、チェスとナッツの隠れ家に迷い込んだようなワクワク感を少しでも感じていただけていたら、作り手としてこれ以上嬉しいことはありません。
そして、GIN NO MORIとルディックの物語がこれからどのように広がっていくのか、私自身も楽しみにしています。
メンバークレジット
パティスリー GIN NO MORI ルディック - WEBサイト
Executive Creative Director:鹿子木 寛(電通)
Creative Director :くぼた えみ(電通)
Art Director:くぼた えみ(電通)
Copy Writer:くぼた えみ(電通)
Account Executive:峰岸 惇(電通アドギア)
Account Executive:橋本 剛幸(電通アドギア)
Creative Producer:久野 稚代(電通クリエイティブフォース)
Web Designer:田渕 将吾(S5 Studios)
Interaction Director:田渕 将吾(S5 Studios)
Front-end Developer:高橋 智也(Orunica Inc.)
Back-end Engineer:高橋 智也(Orunica Inc.)
GraphicDesigner:しおたに さやか
GraphicDesigner:高木 一矢
Photographer:山崎 彩央
Photo Producer:錦木 稔
Retoucher:首藤 智恵(アマナ)
CG:上見 佳史(アマナ)
Agency:電通 / 電通アドギア
90日限定 全文公開中
2026.09.29
静かな森の、もうひとつの物語。 『パティスリー GIN NO MORI ルディック』 ブランドの世界観をWEB体験へ翻訳するまで