「Design to empower」を超える。 『グッドパッチ』が次の15年に掲げたデザイン
太田 義孝
FunTech
2026年、設立15周年を迎えた「グッドパッチ」。コーポレートサイトのリニューアルを起点に、15周年サイト、コンセプトムービー、キャラクター、ミニゲームまで。プロジェクトは当初の依頼範囲を超えながら、ひとつのブランド体験へと広がっていきました。
その中心にあったのは、「どう見せるか」よりも先に、「いまグッドパッチは何を掲げるべきなのか」を考えること。
長く掲げられてきた「Design to empower」とどう向き合い、なぜ「Design to envision」という新たな言葉へたどり着いたのか。AIによって制作の役割や進め方まで変わるなかで、何を人が考え、何をつくり切ったのか。
企画・ディレクションを担当したFunTechの太田義孝さんに、プロジェクトの始まりからリリース直前までを伺いました。
サイトリニューアルの前に、
「なぜ今変えるのか」を掘る
―― まずは、このプロジェクトがどのように始まったのか教えてください。グッドパッチさんからは、最初にどんな相談があったのでしょうか。
グッドパッチさんからお問い合わせをいただいたのは、2025年12月でした。
2026年9月に設立15周年、そして上場5年という節目を迎えるタイミングで、「今勢いのある制作会社」として声をかけていただいたのが始まりです。
最初にいただいた要件は、「コーポレートサイトのリニューアル」でした。ただ、僕らはこの要件をそのまま受け取ることはしませんでした。
―― 「コーポレートサイトをリニューアルしたい」という要件を、そのまま受け取らなかったんですね。
そうですね。僕らはブランディングを考えるとき、その要件自体が本当に解くべき課題なのか、本質は別のところにあるんじゃないか、と疑うところから始めています。
特に今回は、グッドパッチさん自身が「WHYの奥にある強い想い」を大切にしている会社です。その会社に対して、要件だけを受け取って提案するのは筋が通らないと思いました。
なので商談の段階から、なぜ今リニューアルするのか。これまでどんな創業ストーリーがあったのか。それを経て、今何を課題としているのか。かなり深く聞かせてもらいました。
一見サイトリニューアルには関係のない話に見えるかもしれません。でも、深いところにある本質を見定めないと、良いプロジェクトにはならないと考えています。
「大股で13歩」から始まった、
2週間で4回の対話
―― 提案までには、どのくらいグッドパッチさんと話をされたのでしょうか。
提案までの2週間で、4回です。全部対面でした。
これができたのは、グッドパッチさんのオフィスが本当に近かったからなんです。初回に「大股で13歩で着きました」ってアイスブレイクしたのを覚えています(笑)。
物理的に近かったこともあって、かなり高い頻度で話すことができました。
1回目は要件のヒアリング。2回目から本格的に話を聞いていったんですが、15年分のストーリーがあまりにも分厚くて。マーケティング戦略のような細かいところまで聞きたかったので、単純に時間が足りなかったんです。
それで僕から「もう一度お時間をください」と連絡して、2日後にもう一度伺いました。
―― そこから企画書をつくり始めたのでしょうか。
むしろ、途中までつくって持っていきました。
少し荒技なんですが、数十ページある企画書の全5章のうち、3章くらいまでを書いて、「僕らの理解はこれで合っていますか」と見てもらったんです。
ヒアリングが全部終わってから企画をつくるのではなく、途中まで考えたものを一度ぶつけて、ズレを潰しながら残りを聞いていく。
速度と量で、こちらの熱量も伝えたかったんだと思います。
その1週間後の4回目には、もう本プレゼンでした。暫定ではありましたが、コーポレートサイトと15周年サイトのデザインデモまでつくって持っていきました。
デザイン会社が、
デザイン会社をデザインする
―― グッドパッチさんのサイトを手がけることに、難しさは感じませんでしたか。
難しそう、というより、最初は興味の方が大きかったですね。
グッドパッチさんがどう成長してきて、これからどこへ向かおうとしているのか。なぜ今ブランドを変えようとしているのか。そのWHYを直接聞ける。
僕らにとってはデザイン会社の大先輩なので、純粋に「これはものすごく学べるな」と思っていました。
―― 一方で、プレッシャーもかなりありそうです。
それは過去最大級でした。
「デザイン会社が、デザイン会社にリニューアルを依頼する」という構図なので。
FunTechらしい尖りは当然求められる。でも同時に、UI/UXデザインを掲げる会社としての使いやすさや、上場企業としての配慮も必要です。
尖っているだけでもダメだし、整っているだけでもダメ。
さらに、15名ほどの僕らが、200名を超えるグッドパッチさんのブランドデザイン戦略の一翼を担う。規模で見ても、かなり大きなハードルでした。
ただ、これを乗りこなせたら、自分たちも確実に成長できるという予感はありました。
過去を振り返るのではなく、
「次の最高到達点」をつくる
―― ヒアリングを重ねるなかで、最初に見えてきた課題は何だったのでしょうか。
ひとつ大きかったのは、上場という出来事でした。
グッドパッチさんにとって、デザイン会社として上場を果たしたことは、とても大きな成功だったと思います。
でも、それが大きな成功だったからこそ、「あそこが最高到達点だった」という空気を生んでしまっていないだろうか、と考えました。
もし15周年のタイミングで過去を丁寧に振り返るだけなら、その印象をむしろ固定してしまうかもしれない。だから最初の提案では、「このリニューアルを通じて、新しい最高到達点を見つけませんか」と伝えました。
サイトを新しくすること自体ではなく、この時代にグッドパッチが何を掲げるのかを定めることが、本当の課題なんじゃないかと。
―― その時点で、プロジェクトの方針もかなり決まっていたのでしょうか。
大きく2つ、「やること」と決めました。
ひとつは、コンセプトから考え直すことです。上場前から長く使われてきた「Design to empower」をどう扱うかという、かなり難しいテーマにも最初から向き合う。
もうひとつは、面白くて、公開したときの話題性やブランドのインパクトにつながりそうなことには、できるだけ挑戦すること。
逆に「やらない」と決めたのは、過去を丁寧になぞることでした。
過去のストーリーは採用サイトにもかなり蓄積されています。同じことをもう一度やる必要はない。使うなら、面白く使う。そして必ず未来への宣言につなげる。
この制約が、後の15周年サイトやミニゲームにもつながっています。
最初の提案には、
ひとつ大きな抜けがあった
―― プロジェクトが正式に始まってから、最初に取り組んだことは何でしたか。
格好いい話から入りたいところなんですが、正直に言うと、最初は自分たちの提案の帳尻を合わせるところから始まりました(笑)。
商談時の提案は、ブランドとしてどう見せるか、どんなメッセージを掲げるかという話に寄りすぎていたんです。
でも、グッドパッチさんのコーポレートサイトは、ブランドの旗であると同時に、デザイン支援事業のマーケティング装置でもある。
問い合わせの入口でもあるし、エンタープライズ企業の担当者が社内稟議に使う資料にもなる。
尖ったブランド表現をつくるだけでは、事業の役に立ちません。
なので、ブランド表現としての強さと、マーケティング動線としての機能。その両方を満たすように設計し直すところから始めました。
―― そこからコンセプトを決めるまでには、かなり時間をかけたそうですね。
3〜4ヶ月くらいです。
経営戦略、組織、カルチャー、これまでの周年コンセプト、時代背景まで、かなり風呂敷を広げて分析しました。コンセプトが固まる前の資料だけで100ページを超えています。
「なんとなくこれがいい」で決めたコンセプトは、制作の途中で必ず揺らぐと思っているんです。
今回は60ページ以上のコーポレートサイトと、15周年サイト、映像、キャラクターなどを同時に進める。判断基準が曖昧だと、それぞれが別の方向へ進んでしまう。
だから、最初に考え切ることを大事にしました。
「Design to empower」を超えられるか
―― 100ページを超える検討の末に、論点はどこへ絞られていったのでしょうか。
ひとつの論点に絞って考えていたわけではありません。
前段でお話ししたように、コーポレートサイトをマーケティングの装置としてどう機能させるのかという視点もありましたし、AIをどのくらいの強さで打ち出していくのかという議論もありました。
その一方で、そうした時代や事業の変化に左右されず、グッドパッチさんの本質として、この先も長く残るものは何なのかということもずっと考えていました。
そのなかで、大きなテーマのひとつになったのが、長く掲げられてきた「Design to empower」とどう向き合うかです。
社内にも社外にも浸透している言葉なので、変える必然性を示せないなら、触らない方がいい。逆に変えるのであれば、「なんとなく新しくしました」では絶対に成立しないと思っていました。
しかも聞けば聞くほど、社内のみなさんもこの言葉が好きなんです。僕自身も好きでした。温かさもあって、力強い。
だから考えていたのは、「empower」を否定したり、無理に超えたりすることではありません。
これまでのグッドパッチさんと地続きでありながら、これからを示せる、同じくらい強い言葉をつくれるか。
マーケティング、AI、これまでの15年、これからの事業。いろいろな観点を行き来しながら考えた先で、企画戦略として最も強く掲げるべきものが少しずつ見えてきました。
―― そこで「Design to envision」という言葉にたどり着いたんですね。
そうですね。
たくさんの案を考えたなかで、光ったのが「Envision」でした。
まだ存在していないものを、心の中で見える状態にする、という意味です。
大事にしていたのは、AIという今のトレンドだけに依存した言葉にはしないことでした。
AIの流行り廃りがあったとしても、その先までグッドパッチさんの核として残っていく言葉にしたかったんです。
グッドパッチさんは、表層のスタイリングではなく、深いWHYからデザインすることをずっと続けてきた会社です。今では組織開発や新規事業、経営戦略にまでデザインの領域を広げている。
つまり、目の前のものを形にするだけではなく、お客さまと一緒に、その先にある未来を構想するところまで仕事にしている。
そこに「Envision」という言葉が重なりました。
―― その意味を、AI時代という文脈がさらに強くしたのでしょうか。
そう思います。
これから「Empowerment」、つまり何かを実現するための武器を持つことは、どんどん民主化していきます。ツールは行き渡って、誰もがつくる力を持てるようになる。
一方でAIは、「どんな未来を望みたいか」を自ら望むことはできない。
そう考えると、未来を思い描き、そこに向かうべき方向をつくるというグッドパッチさんの強みは、AI時代だからこそ、より鮮明になるんじゃないかと思いました。
AIがあるから「Envision」をつくったのではなく、グッドパッチさんの本質を掘り下げた先に「Envision」があり、AI時代という文脈によって、その意味がさらに強く見えてきた。
そういう順番です。
「Design to empower」から地続きでありながら、これからのグッドパッチさんが何を担っていくのかまで示せる。それが「Design to envision」でした。
―― 「Design to envision」だけではなく、日本語のメッセージもありますよね。
はい。「埋もれた価値を心揺さぶる未来に変えるデザイン」です。
コピー設計で意識したのは、英語のタグラインだけに全部を背負わせないことでした。
英語一語ですべてを言おうとすると、どうしても抽象的になったり、意味が飛びすぎたりする。
「Design to envision」は方向を示す言葉ですが、それだけだと「思い描く」で終わって聞こえる可能性があります。
でもデザインは、思い描くだけではなく、届けるところまでが仕事です。
なので「埋もれた価値」という言葉で、グッドパッチさんが大切にしてきた発掘のニュアンスを受けつつ、それを未来へ届けるところまで日本語で補いました。
英語で旗を立てて、日本語で射程を定義する。そういう役割分担です。
カオスを避けず、力に変え、乗り越える。
「Charge, Chaos」
―― 一方、15周年サイトには「Charge, Chaos」という別のコンセプトがあります。
15周年側は、コーポレートとは少し違う問いから考えました。
15周年を迎えるタイミングで、大きな社会変化のひとつがAIでした。デザイン業界ではネガティブな話題も多かったと思います。
でもグッドパッチさんの中を見ると、土屋さんによる「Claude Code大号令」もあり、全社でAI活用が一気に進んでいた。
つまり、この会社はカオスを不安として処理していない。むしろ楽しんで乗りこなしている。
振り返ってみても、グッドパッチさんは創業からいくつもの大きな変化を乗り越えてきた会社です。
そこで使ったのが「Charge」という言葉でした。
「充填する」「蓄える」という意味と、サーフィンで「大きな波に挑む」という意味がある。
カオスを避けるでも、耐えるでもなく、力に変える。
それが「Charge, Chaos」です。
Goodpatch 15th Anniversary
https://goodpatch.com/15th
―― 「Design to envision」と「Charge, Chaos」が揃ったとき、プロジェクト全体の形も見えたのでしょうか。
そうですね。この2つが揃ったとき、「これならいける」と思いました。
コーポレートサイトは洗練された世界。15周年サイトはカオスに振り切った世界。
ひとつのサイトで両方を中途半端に混ぜるのではなく、役割を分けたことで、どちらも思い切り振り切れるようになったんです。
「バランス」と「尖り」を両立できる構造が、この時点で見えました。
「カッコいいサイト」に振り切らなかった理由
―― コンセプトは、コーポレートサイトのデザインにどう落とし込んでいったのでしょうか。
まずキービジュアルでは、「Design to envision」を説明ではなく、動きとして感じてもらうことを考えました。
グッドパッチさんがプロジェクトでやっているのは、表層だけを見るのではなく、WHYのさらに奥まで潜り、本質的な価値を見つけることです。
なのでトップの動きにも、「深層へ潜っていく」という構造を持たせました。
単に気持ちのいいアニメーションではなくて、動き自体が意味を持っている状態を目指しています。
―― サイト全体としては、かなりクールな方向へ振る選択肢もありそうです。
もちろんありました。デザイン会社なので、デザイナーが見て「カッコいい」と言ってくれるサイトにすることもできた。
でも、そこには振り切りませんでした。
グッドパッチさんは、多くのエンタープライズ企業と一緒にビジネス変革を進める会社です。
クリエイティブブティックのようにクールすぎると、デザイナーには刺さっても、事業側の意思決定者からすると「ちょっと相談しづらい会社」に見えてしまう可能性がある。
だから目指したのは、敷居が低くて、一緒に伴走してくれそうな印象。でも同時に、デザインのプロフェッショナルとして頼りがいがあること。
ビジュアル戦略では、「Authentic」「Blue Bold」「humor」という3つのテーマに整理しました。
堂々とした佇まいと、ブランドカラーの青による力強さ。その2つだけだと、少し怖くなるんです。
そこにCuriosityのテーマとしてユーモアを入れることで、安心感や話しかけやすさをつくる。
だからキャラクターも、サイト全体を可愛くするためではなく、要所でひっそり登場させる設計にしています。
ボツになったサーフィンゲーム。
その先で「勝てる場所」を選び直す
―― 15周年サイトでは、グッドパッチさんのこれまでの歩みをどのように見せようと考えたのでしょうか。
「過去を丁寧になぞらず、面白く触れる」という方針は、最初から決めていました。
グッドパッチさんの歴史は採用サイトにも詳しく残されていますし、15周年サイトでも一般的な年表をもう一度つくるだけでは、あまり意味がないと思ったんです。
そこでヒストリーのエリアでは、15年間に起きたことをきれいに整理しすぎず、むしろ大量の出来事をひとつの大きな文章として見せる構成にしました。
UI/UXという言葉がまだ広く知られていなかった時期の創業から、預金残高4万円からの復活、組織崩壊、ベルリンオフィス、コロナ禍、そしてAI時代まで。重要な出来事だけを色やリンクで浮かび上がらせながら、15年間のカオスそのものを俯瞰できるようにしています。
過去を整理してきれいな年表にするのではなく、「いろいろあった15年だった」という密度ごと見せる。ここでも「Charge, Chaos」の考え方を反映しています。
―― その一方で、歴史をもっと体験的に見せるコンテンツとして、ゲームも検討していたんですね。
はい。そこはヒストリーとは別に、遊びながら15年に触れてもらうコンテンツとして考えていました。
最初につくったのは、横スクロールのサーフィンゲームです。
「Charge, Chaos」がサーフィン由来なので、波に乗りながら歴史上のアイテムを拾っていく。波の高さが経営の浮き沈みを表して、難易度がその時代の厳しさを表す。
メタファーとしては結構きれいでした。
しかも、プロトタイプまでつくっていました。
―― それが、なぜボツになったのでしょうか。
つくりながら、「これはグッドパッチが出すアウトプットになっていないな」と感じ始めたんです。
ひとつひとつの素材というより、サイト全体を貫くカオス感や、そこを抜けていく高揚感が足りない。
「なんとなくゲームをつくった」感じになりそうでした。
そんなタイミングで、別の有名企業が、ほぼ同じ発想のサーフィンゲームを周年サイトで公開したんです。
これは堪えました(笑)。
こちらは品質で悩んでいるところに、同じ企画でもっと完成度の高いものが先に出てしまった。
やり切っても「後追い」にしかならない。それで、第1案は完全に捨てました。
―― そこから、現在のクイズ形式に。
はい。
そこでリアルタイムレンダリングを捨てました。
サーフィンして洞窟の奥へ進む世界観は映像ファイルでつくる。ゲームのロジックは「映像を切り替えること」と「クイズ」に絞る。
そうすると、品質勝負をする場所がゲームコードから映像とUIへ移ります。
僕らは映像とデザインの会社なので、そこなら強い。
限られたリソースの中で、高度なエンジニアリングで勝負するのではなく、自分たちが勝てる土俵に移したというのが大きかったですね。
―― このゲームは、太田さん自身が実装されたそうですね。
Claude Codeを使って、僕が実装しています。エンジニアは介していません。
最初は、その方が早かったからです。
クイズって、「選択肢の出方をちょっと変えたい」「この間を少し長くしたい」という細かな調整が大量にあるんですよね。それを毎回エンジニアに伝えるより、自分で触った方が速い。
でもやってみると、それ以上に良いことがありました。
ひとつは、動かしながら企画を変えられること。
頭の中では面白いと思っていたものが、実際に触ると全然面白くないことがあります。それをその場で直せる。
もうひとつは、実装の重さが分かるので、捨てる判断が速くなることです。
「これを足したらどのくらい大変なのか」が自分で分かるので、面白さに対して実装コストが重すぎるものは、迷わず落とせる。
企画する人間が実装の手触りを持つことで、企画そのものも変わったと思います。
行き着いたのは、
「もう、そのまま説明しちゃえ」
―― コンセプトムービーにも、かなり試行錯誤があったのでしょうか。
ありました。
「Charge」には、「大きな波に挑む」という意味と、「蓄えて力に変える」という意味の両方を込めています。
15周年サイトでは前者がかなり強く出たので、映像では後者、つまり過去のカオスを力に変えてきた15年を描こうとしました。
でも、そこで詰まりました。
普通に振り返ると面白くない。でも演出しすぎると、事実や時系列から離れてしまう。
いろいろスマートな演出も考えたんですけど、どれも小賢しく感じたんですよね。
グッドパッチさんの15年は、もっと泥臭くて、カオスで、タフだったはずなのに、きれいに整理しすぎてしまう。
最終的に出た答えが、「もう、そのまま説明しちゃえ」でした(笑)。
―― あえて、ストレートに。
そうです。
凝った暗喩をやめて、起きたことをそのまま説明する。
その代わり、AI時代を乗りこなすデザイン会社として、AIを使えるところでは、むしろ分かりやすいくらい積極的に使いました。
ナレーションをAIにするというのも、周年映像のような企業VPでは、なかなか採用されない選択だと思います。
でもその「普通はやらない選択」が、結果としてプレイフルさやカオスを強めてくれました。
「見つける」から「届ける」へ。
ぱっちーに込めた一文字の違い
―― キャラクターの「ぱっちー」は、どう生まれたのでしょうか。
最初は、グッドパッチさんからの「キャラ、つくりたいんですよね」という一言でした。
そこから僕らなりに、企業キャラクターとは何かを整理していきました。
アニメや漫画のように、物語があるから好きになるキャラクターもいる。一方で、見た目だけで「なぜか好き」と思わせるキャラクターもいる。
企業キャラクターの場合、長いストーリーを読んでもらえるとは限らないので、後者として成立させる必要があると考えました。
それで、表情に余白があること、可愛いだけでは終わらない意味やギャップがあること、シルエットや要素がシンプルであることを設計原則にしました。
造形は本当にたくさん試しました。「なんか違う」をずっと繰り返して、最後は全員が論理抜きで「可愛い」と言えるものが突然できました(笑)。
―― 特徴的なのが、尻尾のハート型の風船ですよね。
そこも途中で意味が変わっています。
最初は、グッドパッチさんの「まだ誰も気づいていない価値に光を当てる」という考え方から、「見つける」ことを表すゴーグルなどを考えていました。
でも途中で、「見つけるだけではないよね」と思ったんです。
グッドパッチさんらしいのは、見つけた価値をデザインというフィルターに通して、誰かに届けるところまでやることなんじゃないか。
そこで、「見つけるための道具」ではなく、「見つけた価値を届ける装置」に変えました。
それが、ちぎって手渡せるハートの風船です。新しい価値を見つけると光るようになっています。
「見つける」から「届ける」へ。
ほんの一文字分の違いですが、そこがキャラクターの意味を決めたと思っています。
企画を、チームの共通言語にする
―― ここまで考え抜いた企画を、制作チームにはどう共有していったのでしょうか。
一番効いたのは、最初に3〜4ヶ月かけてつくった、100ページを超える資料そのものでした。
今回は、コーポレートサイト60ページ以上、15周年サイト、映像、ゲーム、キャラクターが同時並行で動いています。
当然、それぞれの担当者が自分で判断しなければいけない瞬間が大量にある。
そのとき、「なんとなくこっちがいい」で決めたコンセプトだと、各自の解釈が少しずつズレていきます。
逆に、そこに至るまでに何を考え、なぜこのコンセプトになったのかをみんなが理解していれば、迷ったときに戻れる場所がある。
最初に時間をかけて考えたことが、結果的には制作のスピードにつながりました。
―― 最初に決めた企画を形にしていくなかで、グッドパッチさん側から生まれたものもあったのでしょうか。
大きかったのは、15周年サイトのAIアプリギャラリーですね。
グッドパッチさんの社内では、社員のみなさんがClaudeを使って、280件以上のアプリケーションを自作していたんです。
「これはコンテンツとして展示した方がいい」と提案させていただきました。
もともと周年サイトに置こうとしていたのは、15年間を振り返るコンテンツです。
でもAIアプリギャラリーが入ったことで、サイトの役割が「過去を振り返る場所」から、「今この会社で何が起きているのかを見せる場所」に変わった。
公開を希望してくださった40名弱の作品を掲載していますが、過去15年をどれだけ説明するより、社員が今まさに手を動かしている事実の方が、「Charge, Chaos」というコンセプトを強く証明してくれました。
企画の意図をこちらから一方的に押しつけるのではなくて、クライアントの中で起きていることによって、企画自体の説得力が増していった例だと思います。
役割の境界が溶けた、AI時代の制作体制
―― 今回は、制作チームの役割そのものにも変化があったそうですね。
かなり崩れましたね。
ミニゲームは非エンジニアの僕がClaude Codeで実装していますし、追い込みの時期には、僕やデザイナーも実装の一部を巻き取って、クオリティ調整やレスポンシブ対応をしています。
コーポレートサイトと15周年サイトも、AIエージェントをかなり活用した実装です。
ただ、ここで強調したいのは、AIによって楽になったわけではないということです。
アセット生成も、一回つくって終わりではありません。プロンプトを何度も書き直して、何パターンも企画を出して、何十回も生成し直して、その中から良いものを選んでいく。
実装も同じです。AIが書いたものを人間がひとつずつ見て、判断して、直していく。
AIによって楽になったわけではない。
人の手も、目も、頭も、とんでもなく介在しています。
―― AIによって人の仕事が減るというより、できることが増えていった。
そうですね。
効率化された分が、休みになったわけではないんです(笑)。
その分、もっと提案できるようになった。
もともとの要件は、コーポレートサイト、15周年サイト、映像の3つでした。そこにキャラクターとゲームを自主提案で追加しています。
結果として、自分たちでカオスを増やしたとも言えます。
―― こうしたAIの使い方は、もともとFunTechさんの中で進んでいたのでしょうか。
実は、そうではありません。
プロジェクトが始まった2026年1月の時点では、今のようなAI活用の体制は社内にありませんでした。Claude CodeやCodexのようなコーディングエージェントも、制作現場で今ほど当たり前に使われていたわけではなく、僕ら自身もまだ手探りの状態でした。
土屋さんをはじめ、グッドパッチのみなさんがAIを本気で使って、楽しみながら前に進んでいる。その姿を間近で見たことが、僕ら自身が本気でAIに向き合うきっかけになりました。
つまり、クライアントの変化に引っ張られて、自分たちも変わったプロジェクトなんです。
僕は社会人になってすぐ起業しているので、会社経営の先輩という存在がほとんどいませんでした。個人的には、心強い師匠ができたような感覚もありました。
―― 役割や会社の境界までなくなっていったことを象徴するような出来事はありましたか。
コーポレートサイトのチャットボットは、かなり象徴的だったと思います。
企画自体は、ぱっちーを提案したときからありました。
ただ、やることがあまりにも多くて、こちら側では一度優先順位を落とさざるを得なかったんです。
最終的に拾ったのが、納期直前でした。
UI自体はデザイナーが先につくってくれていたので、ぱっちーのアセットを僕が生成AIでつくって、フロントエンドを実装する。土屋さんが組んでくださったAPIをつなぐ。
それを丸1日でやり切りました。
―― 制作会社とクライアントの社長が、ふたりでコードを書いているわけですね。
そうなんですよ(笑)。
エンジニアではない人間が、制作会社とクライアントという立場も越えて、一緒にコードを書いて納期直前に形にしてしまう。
かなり非合理な進め方なんですが、それができたこと自体、今回のプロジェクトを象徴していたと思います。
しかも公開後、かなり使われていると聞きました。
一度は優先度を落としかけたものが、結果的にかなり触られている機能になったのも面白かったですね。
非合理な選択を、最後までやり切る
―― 一方で、この規模の制作を進めるなかで、最後まで難しかったことは何でしたか。
単純に、会社の規模に対して制作量が多すぎました。
初期要件は、コーポレートサイト、15周年サイト、映像の3つです。そこにキャラクターとミニゲームを僕らから追加している。
15名の会社で、ほぼ全員が動いても足りないような状態が続きました。
本当に、自分たちでカオスをつくっています(笑)。
もうひとつ、今振り返るとかなり反省していることがあります。
プロジェクトが始まった時点では、今使っているような高性能なAIエージェント環境はまだありませんでした。
あの物量を、もしそれらがない状態で最後までやることになっていたら、どうしていたんだろうと。
かなりギリギリで、1日でも足りなかったら納期に間に合わなかったと思います。
今振り返ると、「本当によくないプロジェクト設計をしていたな」と思います(笑)。
―― それだけ大変だったなかで、想像以上にうまくいったものもありましたか。
ひとつは「ぱっちー」です。
企画時点では、「BtoBの上場デザイン会社に公式キャラクターが本当に必要なのか」と聞かれたら、合理的には説明しきれませんでした。
でも今では、Slackのスタンプや社内資料にも登場していて、コミュニケーションの一部になっています。
土屋さんから「ちょっと言いづらいことも、ぱっちーがいれば言いやすい」と聞いたことがあって。
キャラクターが、組織の中でちょっとしたクッションとして機能し始めているんです。
論理では必要性を説明できなかったものが、実際の組織の中で役に立っているのは面白いですね。
AI時代との相性もあると思います。
以前だったら、キャラクターを運用し続けるには、イラストレーターや3Dアニメーターがずっと素材をつくり続ける必要がありました。素材制作のコストも高い。
今は生成AIによって、展開の仕方そのものが大きく変わっています。
結果論ではありますが、最初は非合理に見えた選択が、すでに合理的な成果につながり始めています。
―― 今振り返って、「ここまではやらなくてもよかった」と思うものはありますか。
正直、別の選択肢があったとはあまり思っていません。
全部をやり切らなかったら、今回のようなリリースの熱量にはならなかったと思うからです。
「Charge, Chaos」というコンセプトの通り、このプロジェクトは足し算に次ぐ足し算でした。
ある意味、物量がクオリティを生んだプロジェクトでもあります。
ひとつでも大きく諦めていたら、どこか寂しいものになっていたかもしれません。
もちろん、細かく見れば妥協したものはあります。
それでも、できることを最初から削るのではなくて、リリース直前までどうしたら実現できるかを考え続けた。
その積み重ねで、今回のブランド体験ができたと思っています。
プロジェクトのコンセプトとして掲げていた「Charge, Chaos」を、結果的には僕ら自身の制作プロセスでも体現していたのかもしれません。
AIで生まれた時間を、どこに使うのか
―― 最後に、このプロジェクトを経て、これからの仕事にも残りそうなことを教えてください。
一番大きいのは、AIで生まれた時間をどこに使うのか、だと思います。
今回、効率化された時間は休みにはならず、もっと提案し、もっとつくり込むことに使われました。
AIによってできることが増えたとき、その余白をどこに投じるのか。そこが、これからの差になると思っています。
もうひとつは、非合理に見える選択が、中長期では合理的なものに変わることがあるということ。
ぱっちーもそうですし、今回の制作量そのものもそうでした。
短期的な合理だけで考えれば、やらない方がいいものがたくさんあった。でも公開後まで含めて見ると、それがブランドの力になり始めています。
そして何より大きかったのは、AI時代の新しい制作スタイルを、大規模な実案件の中で体験できたことです。
AIを使うこと自体が新しいわけではありません。
人が考えて、AIで試して、また人が判断する。必要なら、その途中で企画そのものも変えていく。
その往復を、小さな実験ではなく、グッドパッチさんという会社の大規模なプロジェクトで経験できたことが、一番の財産だと思っています。
メンバークレジット
Client
Goodpatch Inc.
Team FunTech (FunTech inc.)
• 戦略・コンセプト開発フェーズ
Strategic Planning/Concept Design: OHTA Yoshitaka, MATSUMOTO Kensuke
Creative/Art Direction: OHTA Yoshitaka
• コーポレートサイト制作
Creative/Art Direction: OHTA Yoshitaka
Concept Copy Writing: OHTA Yoshitaka
Design/Motion Design: MORIYA Futo
Frontend Development/Motion Design: HASHIMOTO Takuma, JOKURA Roku
3D Modeling: Terence De Vries
Quality Assurance: TANAKA Yuki
• 15周年サイト制作
Creative/Art Direction: OHTA Yoshitaka
Concept Copy Writing: MATSUMOTO Kensuke
Design: KARIYA Yuya
Frontend Development/Motion Design: HASHIMOTO Takuma, JOKURA Roku
• 15周年サイト内ミニゲーム制作
Creative/Game Design: OHTA Yoshitaka
Game Asset Design: KARIYA Yuya
Development: OHTA Yoshitaka
• 15周年コンセプトムービー
Creative/Art Direction: MATSUMOTO Kensuke, OHTA Yoshitaka
Design: KARIYA Yuya
Video Production: KONDO Naoyuki
• キャラクターデザイン
Creative/Art Direction: MATSUMOTO Kensuke
Character Design: HORINO Junpei
3D Modeling: Luis Antonio Bermúdez González
Character Animation: WAKAME Keina
90日限定 全文公開中
2026.09.27
「Design to empower」を超える。 『グッドパッチ』が次の15年に掲げたデザイン