構造・ネーミング・デザイン UPVEGEに見る強固なブランド設計
堅田 佳一
中野 浩明
UPVEGEのサイトには、野菜のやさしさと、スタートアップらしい推進力が矛盾なく同居しています。
自然志向に寄りすぎることもなく、テックに偏ることもない。その絶妙な均衡は、どのように設計されたのでしょうか。
構造設計からボツ案の大逆転、そしてWebへの翻訳まで。UPVEGEのブランディングプロセスを、L/Oの堅田佳一氏と中野浩明氏に伺いました。
構造から考えるブランドのかたち
インタビュイー:堅田 佳一
――このブランドの構造を考える上で、最初に整理すべきだったことは何だったのでしょうか。
本プロジェクトは、クライアントであるグリーンエースの中村さんからemuni村上さんへ依頼があったことを起点に、村上さんからお声がけいただき、役割に応じてチームを編成していきながら共に作り上げていきました。
CDとして私が注力したのは、単にクリエイティブの完成度を高めること以上に、グリーンエース社が持つ多面的なビジネスモデルを、デザインを通じて正しく表現し、機能させることでした。
彼らは、企業への原料提供や循環スキームの構築(toB)だけでなく、その延長にある一般消費者向けの製品販売(toC)まで一貫して責任を持つという、二つの重要な側面を持っています。この両輪を同じトーンで語るのではなく、それぞれのターゲットに最も深く刺さる表現へと最適化すること。それこそが、スタートアップとしての彼らの「本当の強さ」を表現する最良の方法だと考えました。
具体的には、タッチポイントによってクリエイティブの温度感を使い分けています。
パッケージデザイン(toC向け)
SMやDS、GMSなどを経由して最終消費者の食卓に届くものとして、野菜が持つ自然由来の魅力を伝えるため、「柔らかさ」や「優しさ」を直感的に感じさせつつ、何より重視したのは「分かりやすさ」です。生活の中に自然に溶け込み、誰が見ても内容が伝わる、親しみやすい設計を徹底しました。
ブランドサイト(toB向け)
一方で、共創パートナーとなる企業に向けた「顔」となるWEBサイトは、私たちが描きたいブランドのイメージをそのまま純度高く作り込みました。ここでは、野菜の持つ「優しさ」と、ブランドの持つ「成長性」「気鋭さ」という異なる要素を、高度なバランスで一つの世界観へと統合し、他の企業にはないビジネスモデルや、スタートアップ企業としての勢いを感じてもらうきっかけを作っています。
――二つの温度感を使い分ける設計は、実際にはどのような難しさがあったのでしょうか。
最も苦心したのは、野菜本来の魅力である「優しく繊細な世界観」と、これまでにないビジネスモデルを有するフードテックスタートアップとしての初々しさや成長を印象付ける「力強い矢印の表現」という、本来は相反する二つの視覚表現をどう共存させるかという点です。
繊細なタッチのアートワークと、大胆で直線的なグラフィック。これらはトーンが全く異なるため、安易に組み合わせると互いの良さを打ち消し合ってしまいます。優しさが勝てば企業の勢いが削がれ、強さが勝てば野菜の温もりが消える。この矛盾する要素を一つのビジュアルの中に違和感なく成立させ、新しい価値として定着させる「バランスの妙」を見つけ出すこと。その一点に、職人的な難易度があり、またデザインの力が最も試される局面であったと思います。
さらに、プロジェクトを進める中で我々チーム内では「マス」と「インディペンデント」という言葉でよく議論を交わしました。toC向けの側面では、マスのお客様を意識した商品作りやそれに伴うデザインが必要になります。一方でtoB向けには、ローカルの小さな会社の思想を深く掘り下げるようなインディペンデントなブランディングを行うことと同義のアプローチが求められます。
この、求められる能力が全く異なる二つの領域を同時に成立させることは、幅広い知識と確かな実力を兼ね備えたチームでなければ到底実現できないプロジェクトだったと思います。今回のチームは、まさにその両極端な課題をクリアできる数少ないクリエイターを揃えられたからこそ、この難題を乗り越えることができました。
――ブランドとしての“姿勢”を決める上で、意識的に避けたことはありましたか。
両立の難しさと向き合う中で、同時に「やらないと決めたこと」もありました。未使用食材を「もったいないから使う」といった、消極的な動機付けにつながる表現はやめようと決めました。その視点はもはや今に時代にはマナーとして備わっていて、それよりも、これまで見つかっていなかった「素晴らしいもの(原石)を見つけたから、みんなに知ってほしい」という、純粋でポジティブな衝動を何よりも大切にしたかったからです。
すべてが繋がった「UP」という言葉
――UPVEGEの軸となるコンセプトは、どのようなプロセスで定まっていったのでしょうか。
ブランドの核となる言葉を探る中で、「UPVEGE(アップベジ)」という名称に行き着いた瞬間、我々チームの中で視界がぱっと開け、バラバラだったピースがひとつの線で繋がる感覚がありました。
この「UP」という言葉には、明確な意志を込めています。 利用されることなく埋もれていた未利用野菜という原石を「アップグレード(昇華)」させること。そのパウダーを日常に取り入れることで、人々のコンディションや気分をふわりと「アップ(高揚)」させること。そして、共創するパートナー企業の事業価値を「アップ(向上)」させること。
さらに、この「UP」を裏付ける重要なキーワードが、サイトでも掲げている「野菜の栄養をムダにしない」というブランドの姿勢です。目に見える形にとらわれず、野菜が本来持っている「栄養」という重要な価値を独自のテクノロジーで丸ごと引き出し、一切のムダなく生活に届ける。
「ロスを減らす」という静的な言葉ではなく、「栄養を最大化し、すべてをUPさせる」という動的でポジティブな言葉を見つけたことで、グリーンエース社が持つ熱量と推進力を、ブランドコンセプトとして明確に表現できました。
成長する“ツル”というメタファー
――その思想を、どのように視覚へと展開していったのでしょうか。
この「UP」という上に向かうエネルギーを視覚化するにあたり、私たちが着想を得たのは、植物本来が持つ「成長する力」でした。 植物は土の中でじっとしているだけでなく、太陽に向かってツルを伸ばし、力強く広がっていく生命力を持っています。私たちはその「上へ、外へと向かう有機的な動き」を抽出し、ブランドを象徴するグラフィックエレメントとして再解釈しました。
キービジュアルなどを横断するこの「ツル」のグラフィックは、単なる装飾の線ではありません。無機質な直線の矢印ではなく、しなやかな曲線を描くことで、スタートアップフードテックブランドとしての「事業の成長性」や「商品ラインナップの拡張性」を表現しています。 さらに、このツルが自由自在に変形し、空間を伸びていく様子は、あらゆるパートナー企業のビジネスの隙間に入り込み、共に新しい価値を創り出すことができる「共創の無限の可能性」というメタファー(暗喩)として機能させています。自然の生命力を、ビジネスの拡張性へと翻訳したのがこのグラフィックです。
――最終的に、どのような世界観を目指したのでしょうか。
私たちがデザイン全体を通して表現した世界観は、「テクノロジーによって引き出された、野菜の魅力」です。
ここで描きたかったのは、単なる「体に優しい」といった既視感のあるナチュラル志向でもなければ、効率や数値だけを追う「冷たく無機質なテクノロジー」でもありません。 土や自然からくる「優しく繊細な野菜」の温もりと、グリーンエース社が持つ「新技術によって食の未来を切り拓く、生き生きとした躍動感」。この二つの温度感が絶妙な均衡で共存し、ひとつのブランドの佇まいとして結実した姿こそが、UPVEGEの世界観です。
日常の食卓からパートナー企業のビジネスまで、あらゆる場面に「新しい成長のエネルギー」を注入していくような、生命力あふれる姿を視覚化しました。それは、野菜という存在を、テクノロジーの文脈で再定義する試みでもありました。
見えない設計に、時間をかける
――具体的なビジュアルに入る前に、どのような整理を重ねていったのでしょうか。
ブランディングにおいて最も重要なのは、「上流工程において、いかに強固な独自ポジションを確立できているか」に尽きます。そのため、本プロジェクトで我々が最も多くの時間を割いたのは、具体的なデザイン作業ではなく、この最上流の設計でした。
グリーンエース代表の中村さんの内に秘めた熱い想い、企業としての今後の競争戦略、そしてtoBとtoCを横断する特徴的なビジネスモデル。これらを徹底的に紐解き、掛け合わせることで、ブランドストラクチャー(ブランドの構造)を緻密に組み上げていく。この目に見えない土台作りにこそ、圧倒的な時間を投資しています。
既存のエコブランドやテック企業には真似できない「グリーンエースにしか立てない独自の立ち位置」を明確に言語化したからこそ、その後のすべてのクリエイティブの方向性が定まりました。
――そのブランドストラクチャーを、どのように言葉として定着させていったのでしょうか。
このブランドストラクチャーを具体的な「言葉」として定着させていくフェーズにおいて、コピーライターである藤田さんの力は凄まじいものがありました。 藤田さんの仕事は、単に綺麗なキャッチコピーを提案することに留まりません。その言葉が今後どう展開されていくかという「奥行き」までを深く計算し、あらゆる可能性を検討した上で、すべてを実際のお客様の「使用シーン」に当てはめて検証してくれるのです。この並外れた展開力と検証の精度があったからこそ、「UPVEGE」というブランドコンセプトや核となるキーワードが、揺るぎない強度をもって固まっていきました。
ボツ案からの大逆転
――上流設計を経て、ビジュアルの具体化はどのように進めていきましたか。
言葉と構造が定まり、次に見据えたのは視覚的なアウトプットです。この複雑なクリエイティブ――すなわち「マス」向けの分かりやすさと、「インディペンデント」なブランドの勢いという両極端な要素を、高次元で実現するためには、デザインの強度が必須条件でした。
本プロジェクトでは、デザインスタジオの「emuni」さんと共同で進行できたことで、アウトプットのクオリティに対する不安は一切なく、私の中では「この強固なストラクチャーを、彼らと共にどう表現していくか」という純粋な楽しみがありました。
そうした体制のもとで具体的なビジュアル検証が始まってから、私のこれまでのキャリアでも初めてとなる驚きの展開がありました。
初期のロゴおよびキービジュアルの提案では、A、B、Cの3つの方向性がありました。会議の場では「B案は先進的でありすぎるのではないか」という懸念が出ました。スーパーなどのマス向け売り場に並んだ際のコミュニケーションを想定すると、他の案の方が魅力的な回答に見えたため、事実上「B案はボツとし、AかCに絞って進めましょう」という決断を下したのです。
しかし、次の提案の場に現れたemuniさんは、全案をさらにブラッシュアップした上で、ボツになったはずのB案でも「売り場のコミュニケーション課題」を見事に解決する術を提示してくれました。
その圧倒的な熱量と説得力を前に、結果として、ブランド表現として最もイメージがはまるB案が最終決定となりました。私もこれまで役得でかなり多くのプレゼンの機会に恵まれてきましたが、一度ボツになった案が課題を完全にクリアして大逆転するという流れは初めての経験でした(笑)。
セオリーを、あえて外す
企業ごとのブランディング
――一度ボツになった案が最終的に採用された経緯は、とても印象的ですね。どのように再評価されていったのでしょうか。
このB案の決定、そしてそれに伴うデザイン展開の背景には、実はブランディングのセオリーからの「意図的な逸脱」があります。
通常、ブランディングのセオリーでは、どの側面を切り取ってもブランドが正しく伝わるよう、表現の統一を図り、単一のトーンに研ぎ澄ましていくべきとされています。 しかし、グリーンエースさんのビジネスモデルにおいて、生命線となるのは「共創」です。共創先であるパートナー企業様の、そのさらに先にいるマスのお客様にどう支持されるべきか? そこを突き詰めて考えた時、まさにemuniさんが普段手掛けていらっしゃるような「ナショナルブランドのパッケージ手法」が絶対に必要だと確信しました。
だからこそ今回はあえてセオリーとは違うアプローチを取りました。サイトなどのブランド表現では先進的で攻めた世界観を提示し、一方で売り場での接点であるパッケージデザインでは徹底して分かりやすく親しみやすい表現へと着地させる。タッチポイントごとにあえて温度感を変えながらも、一本のブランドとして自然に繋ぎ合わせるという設計です。 結果としてこの両立を見事に果たした今回のアウトプットは、「企業ごとにブランディングの最適な手法は全く違う」ということを証明する、非常に良い実例になったと自負しています。
ブランドをWeb体験へと落とし込む
「翻訳」という感覚
インタビュイー:中野 浩明
――ここからは、Webデザイナーの中野さんに話を伺います。その思想を、Webというメディアでどのように成立させていったのでしょうか。
このように、このプロジェクトにはクリエイティブディレクションという明確な意思に立脚した言葉や表現が、すでに強度を持って立ち上がっていました。だからWebデザイナーとしてのぼくの役割は、新たな印象やビジュアル表現をつくることではなく、いかに「Webサイトとして成立・定着させるか」だったと思っています。
そんな中で難しかったことは、どこまで手を加えないで、どこまで飛躍できるかでした。
「UP」という動的でポジティブな概念、成長する「ツル」のモチーフ、親しみと革新性の両立、ビジネス・生活・社会の横断。こういった視覚表象のコアとなる概念を、Webというメディアで、”らしさ”として定着させるためには、どう最適化すべきか。それは再解釈するのではなく、丁寧に翻訳するという感覚だったように思います。
余談ですが、Rhizomatiksの木村さんがご自身のことを「Digital Printing Director」と名乗っていて。参考リンク
今回のアップベジをはじめ、超腕の立つデザイナーたちの意思を受け取ってWebに向き合う時に、ぼくがぼんやりと考えていたあり方を巧妙に表現している考え方だなと思って、思わず木村さんに「その役職、暖簾分けしてください」とお願いしたくらいでした。まさに今回のWebデザイナーとしての僕の役割はこれに尽きるのではないかと思っています。
――Webならではの表現として、どのような工夫を行いましたか。
具体的なところでいうと、本来何も手を加えなくとも成立するキービジュアルを、Webサイトの特性を利用するからこそ出来る定着方法はないものかと考え制作したのが、インタラクションに特化したアニメーションツールのRIVEを活用した有機的なツルと矢印の表現です。
また、野菜が商品にアップサイクルされていくことを表したループ表現は、Webサイト的にはなんてことないよくある手法ですが、アップベジの事業特性を直感的に表現しつつ、結果として親しみと革新性を助長することができたのではと感じていて、個人的にはお気に入りポイントです。
フッターの上に伸びるツルも、よくある「ページトップへ」を捩ったダジャレ的な表現ですが、上に向くというポジティブな表現を、アップベジのビジュアルアイデンティティだからこそ出来る機能に結実できたのかなと思っています。
このように、ぼくは特に新しい何かを生み出したわけでもないので、このWebデザインを「ぼくのデザインです」とは言いあぐねてしまうのですが、だからといって、自分の責任が薄いとは思っていません。
0から1を生み出したわけではないけど、1をそのままにしておくこともまた違う。CDやADが描いた理想像を、Webというメディアに翻訳し成立させること。それが今回のアップベジにおける、Webデザイナーとしての僕の立ち位置だったのかなと感じています。
成果と、その先に見えたもの
――この一連のプロセスを経て、どのような手応えを感じましたか。
このプロジェクト全体を振り返って、私の中で最も大きな手応えとして残っているのは、「企業ごとにブランディングの最適な手法は全く違う」ということを、ひとつの実例として明確に証明できたという事実です。
第3章でも触れた通り、ブランディングのセオリーでは「どの接点でも同じトーンで語る」ことが正解とされます。しかし今回、私たちはあえてそのセオリーを逸脱し、toB(ブランドサイト)ではインディペンデントで先進的な表現を、toC(パッケージ)ではマス向けの親しみやすい表現を採用しました。グリーンエース社の「共創」というビジネスモデルを勝たせるためには、画一的な統一感よりも、タッチポイントごとに最適な温度感が必要だったからです。 「あえて定石を外す」という決断を下し、それを破綻させることなく一つの強固なブランドとして成立させたことは、上流から経営の構造に入り込むクリエイティブディレクターとして、非常に大きな自信と成果に繋がっています。
また、個人的な成果として外せないのが、この難題に挑んだチームの熱量と、そこから生まれた化学反応です。
上流で組み上げたブランドストラクチャーに対し、藤田さんが使用シーンを見据えた解像度で言葉に奥行きを与え、emuniさんが、一度はボツになりかけた案を売り場のコミュニケーション課題まで解決する次元へと引き上げ、大逆転で着地させる。
このプロジェクトを通じて得られたのは、単に「良いデザインができた」という結果論ではありません。それぞれの領域のトッププロフェッショナルたちが互いの思考に呼応し、初期の想定を軽々と飛び越えていく瞬間を共有できたという、クリエイターとしての純粋な驚きと喜びです。この最強の座組であったからこそ、あの複雑で矛盾を孕んだ要件を、一切の妥協なく洗練されたアウトプットに昇華できたのだと確信しています。
――今回のプロジェクトは、どのような反響がありましたか。
目に見える売上や共創事例などの定量的な成果は、これから市場が証明していくことになります。しかし定性的な変化として、すでにグリーンエース社内では、この「UPVEGE」という可視化された世界観が、日々の意思決定において迷った時に立ち返るための「絶対にブレない羅針盤」として機能し始めています。
「もったいないから」という消極的なマナーではなく、「テクノロジーが引き出す野菜の新しい魅力」を世の中に提示していく。変幻自在に伸びゆくツルのグラフィックのように、UPVEGEがこれから様々なパートナー企業のビジネスに入り込み、社会の新しい食のインフラとしてどのように成長していくのか。その最初の、そして最も強固な土台をこのチームで築き上げられたことを、心から誇りに思います。
メンバークレジット
Client: 株式会社グリーンエース
Creative Direction: 堅田佳一(L/O)
Art Direction, Design: 村上雅士(m² | emuni)
Design: 太田香織(m² | emuni)
Illustration: 白川桃太郎(m² | emuni)
Naming, Copywriting: 藤田卓也
Copywriting(Website): 安岡晴香
Photography(Package Visual): 中田洋介(中田写真事務所)
Web Direction, Design: 中野浩明(L/O)
Web Development: 松本新
Motion Design: Yonsan Kim(SHIFTBRAIN Inc.)
Project Management: 栃倉淳子(etofu)
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2026.04.03
構造・ネーミング・デザイン UPVEGEに見る強固なブランド設計