“らしさ”を言葉とデザインで再構築 『功有会』のリブランディング事例
北川パーヤン
横澤 由香里
王生 芹香
奈良県を拠点に福祉事業を展開する社会福祉法人・功有会。
採用活動の難易度が高まる中で、「功有会らしさ」とは何かをあらためて問い直し、その言葉と表現を再設計する取り組みです。
本記事では、ディレクション・コピーを担当した北川パーヤンさん、デザインを手がけた横澤さん、実装を担当した王生さんに、そのプロセスを伺いました。
功有会の本質を丁寧に描く
そのための土台づくり
インタビュイー:北川パーヤン
―― 功有会のWebサイトを拝見したとき、単なるリニューアルではない気配を感じました。
どのような背景から、このプロジェクトは始まったのでしょうか。
はじめまして、CHO-P inc.のディレクター・北川パーヤンです。職域としてはディレクション・プランニング・コピーライティング・プロジェクトマネジメントを担当しています。本記事では功有会のブランディング、そのデザインストーリーを紐解いていきます。プロジェクトのきっかけは、制作会社シフトブレインへのお問い合わせでした。同社プロデューサーの真鍋よーこさんにより一度、概要ヒアリングが行われた後、私がアサインされる形で参画しています。
功有会は、ブランディングやWebリニューアルを頻繁に行っている法人ではありません。専任の広報部門があるわけでもなく、制作物を発注することが日常ではない組織です。そうした背景もあり、本件ではクライアントを含めてプロジェクトを前に進めながら、丁寧に合意形成を行える人材として、私が選ばれました。(案件特性に合わせたクリエイターアサインを社内外からできるのはシフトブレインさんの強みですね。)
初期段階から見えていた課題は、比較的分かりやすいものでした。採用活動が年々難しくなる中で、功有会が持っている「働く魅力」が十分に伝わっていないこと。また、既存サイトのデザインや理念表現が少し前の時代のもので、今の受け取り手にとっては読み解くための負荷が高くなっている点です。くわえてヒアリングを重ねていく中で、功有会としての「らしさ」が、ご利用者・ご家族・求職者・地域福祉関係者にきちんと伝わっていないことも分かりました。
功有会として大切にしている考え方。
功有会で働くとは、どういうことなのか。
その軸になる言葉が整理されないままでは、どれだけ見た目を整えても、本質的な改善にはつながりません。
このプロジェクトで目指したのは、Webサイトを新しくすることそのものではありません。功有会の採用活動にきちんと寄与し、地域にとって必要な福祉が、これからも続いていく状態をつくること。
そのための土台づくりでした。
「誰もそれをしたくて、この業界に入っていない」
その現状から見えたもの
―― 初期フェーズでは、どのようにヒアリングや対話を重ねていったのでしょうか。
福祉の事業は、一般的なtoCサービスとは少し性質が違います。ご利用者やご家族だけでなく、行政、病院、地域包括支援センター、ケアマネージャーなど、多くの関係者が関わります。Webサイトも、単純に成果を刈り取るためのものとして設計するわけにはいきません。そこで目指したのは、立場が違っても、見た人が「功有会なら信頼できそうだ」と感じられることでした。
そのためにまず行ったのが、「何を、誰に、どう伝えたいのか」を整理することです。ヒアリングは、理事長や役員だけでなく、主要施設の園長、新卒職員との座談会、キーパーソンを集めたワークショップ、施設見学など、15回以上行いました。
印象に残っているのは、業界で稀に起こる虐待や不祥事の話題に触れたときのことです。 その場で、ある園長がこう話してくださいました。
「誰もそれがしたいと思って、この業界に入ってきていないんです」
この言葉から見えてきたのは、ケアされる人だけでなく、ケアする人の人生も大切にされるべきだという、現場の実感でした。ここは採用メッセージの「ケアする人もケアされる人も、誰にも『その人だけの人生』があります。」という一節につながっています。
そうして最終的に選ばれたサイトコピーは、「あなたのよりどころ。」という言葉です。利用側も提供側も、その他の関係者もすべて内包していることがとても「功有会」らしいです。派手さはありませんが、 功有会が日々行っていることを、無理なく表せる言葉だと感じています。
―― 他法人との差別化を強く打ち出す方法もあったと思います。
なぜ今回は、そのアプローチを選ばなかったのでしょうか。
他法人と比較し、本質から少し“ずらした”優位性を強く打ち出すという発想は、今回は取りませんでした。福祉事業は地域性が強く、サービス内容の違いを細かく説明しても、決定打になりにくいからです。それよりも、功有会が功有会として大切にしていることを、そのまま丁寧に伝えることを選びました。
「誰が、何を、いつまでに」
安心して議論できる環境づくり
―― 功有会のような組織と向き合うとき、何から整えるべきだと考えましたか?
功有会のように、専任の広報部門がなく、関係者も多い組織とプロジェクトを進める際は、迷いや不安が生まれにくい設計を先につくることが特に重要だと考えています。私が最初に行うのは、「誰が、何を、いつまでに」を明確にし、それを視覚化して共有することです。都度のMTGアジェンダと、依頼事項とその進行状況を整理したリストを用意し、プロジェクトの現在地が見える状態をつくっていきます。
また、MTGで判断が止まらないよう、事前に(かっこう良く言い過ぎですが)「思考トレース」も行います。クライアントがどこで迷い、何に不安を感じそうかをあらかじめ想定したうえで、当日はメリット・デメリットを整理し、「今回はこの点が重要なので、この方向がおすすめです」と根拠を添えて提案します。
アジェンダや進行リストの視覚化は、管理のためではありません。参加者全員が「何を話しているのか」「何をすべきなのか」を迷わず理解し、安心して議論に集中できる環境をつくるための設計だと考えています。
組織の中で、生き続ける「言葉」を
―― 功有会らしさを言葉にしていく過程で、どのような対話を重ねていったのでしょうか。
ヒアリングでは、あえてシンプルな質問を投げかけ、その場の回答に合わせて問いを重ねていきます。 特に功有会では園長クラスの方々が、日々自分の仕事に真摯に向き合い続けている方ばかりで、言葉の奥行きがとても深かったのが印象的でした。
また、デザイナーの横澤さんも見学やヒアリング・ワークショップに同席し、できるだけ同じ景色を見るようにしました。たくさんヒアリングしたのに参加してくれて多謝です。(ときどき、デザイナーに手を動かすデザイン以外のコストを払わせないのがいいディレクターみたいな論調みますが主語述語ともにがデカすぎですよネ。)
そうして出てきた要素を整理し「MVV・コピーの種」とし、再度議論します。経営層と現場での認識齟齬なども解消し、改めて伝えるべき要素の重要度や順番を決めていきます。(普段経営層からは見えにくい現場の生の声を第三者として伝えられるのも我々ブランディング従事者の価値ですネ。)
コピーやMVVを考える際に、私が一貫して意識しているのは、「言葉は作って終わりではない」ということです。どれだけきれいな言葉でも、使われなければ意味がありません。そのため、「何を誰にどう伝えたいか」を整理したうえで、語り口や温度・強さ・角度の違う複数案を用意し、「自分たちが使える言葉になるか」も論点に入れMTGの中で議論しながら決めていくプロセスを大切にしました。
本件でも、コンバージョン獲得に寄り、意思決定に大きく関与するご利用者のご家族に向けた「家族はつづく、より良い関係で」というコピーや
提供価値の説明に重きを置いた「話す、聞く。知る、知ってもらう。認め合い、くらしていく。」なども案として提案しています。
―― 情緒的なコピーと、具体的な情報のバランスはどのように考えましたか?
コピーだけでなく、ボディコピーも同じくらい大切だと考えています。デザイン性だけを優先すると、ボディコピーはときに“邪魔な要素”として扱われてしまうこともありますが、私が手がけるサイトでは、多くの場合、ファーストビューに入れてもらっています。
とくに功有会のように、サイトコピーが情緒に大きく振れている場合は、その傾向が顕著です。情緒的な言葉だけでは軽く見え、受け取り手に不安を与えてしまうこともあるため、その価値を裏付ける実情報を必ず添えるようにしています。
功有会のサイトでは、施設数や事業数を明記し、規模による安定感をしっかりと伝えました。情緒と事実の両方を並べて提示することで、言葉の説得力が増し、より安心して受け取ってもらえると考えています。
他にもいろいろ語りたいのですが、長くなりすぎるのでここらへんで横澤さんへバトンタッチします。ミッションや行動指針、その他サイト構成についてもし気になる方がいらっしゃったらまたシフトブレイン主催のiDID忘年会などでお声がけください。
“らしさ”の宿る表現へ導く
デザイナーの進め方
インタビュイー:横澤 由香里
ここからはパーヤンさんからバトンを受け、表現パートを横澤が書きます!
今回は「表現に辿り着くまでの進め方」と、「デザイン提案(没案も出しちゃうぞ)」について触れていきます。
―― 功有会のロゴやWebデザインには、やわらかさと誠実さが共存しているように感じます。
その方向性は、どのように定めていったのでしょうか。
デザイナーのタスクは、情報収集や分析など"インナータスク"も含まれますが、今回は特に「クライアントとどのように表現の方向性を合意していったか」に焦点を当ててお話ししたいと思います。フローは以下の通りでした。
1. 功有会の「キャラクター」定義 & ロゴリファレンス
2. キャラクターに基づくロゴデザインの提案
3. Webサイトの方向性の定義 & リファレンス
4. Webサイトのデザイン提案
現場の想いから立ち上がる
ブランドのもつ「キャラクター」
全てのヒアリングやワークショップに参加し、現場の皆さんが大切にしている想いや言葉を伺いました。ヒアリングで集まった言葉は多岐にわたりましたが、そこから印象に残ったワードを抽出し、ブランドが持つべき「人格(キャラクター)」として整理してみたところ、以下の3軸に分類できることに気づきました。
福祉という仕事の土台にあるもの
「人生の最後に関わる仕事である」
「生活の場である。病院と違い自由度を担保するべき」
「今までの生活スタイルを理解すること」
「嘘をつかない、いいことも悪いことも正しく伝える」
「個々人の特性を理解し、画一的に扱わない」
「本人の価値観・プライドを守ること」
人や地域とつながるということ
「安心とは誰かとつながっていること」
「自分を気にかけてくれる人がいること」
「住み慣れた街で住み続けられる幸せ」
「厳しく接するということがなく、一人ひとりにあったペーズで指導する環境」
「周りなんか気にしなくていい、自分のペースでいい」
「最終面接、ラーメン屋と野球の話だけして終わった」
未来へ向かう姿勢
(視察にて)最新機器の導入や、取り組みのアップデート
(視察にて)時代や需要に合わせた事業展開
その人や場面に沿った教育制度や仕組み
※「」内はヒアリングでお聞きした言葉たち
それらを束ねていくと、功有会のキャラクターは、自然と以下の軸に集約されていきました。
•Trust(信頼・誠実):福祉業界としての土台
•Friendly(安心・親近感):人と人を繋いでいく、地域との連携
•Modern(挑戦・先進性):新しい機会へ挑む姿勢と採用目的
これらを基に、打ち合わせ資料では、「ロゴの基礎知識」「功有会のキャラクター設定」「アイデアベースのリファレンス」をセットで提示しました。
2026.04.03
“らしさ”を言葉とデザインで再構築 『功有会』のリブランディング事例