まずは知ることから。 デザイン初学者に伝えたい「センス」のつくり方
もりぐ
デジLIG
連載『デザインの見え方が変わるとき by デジLIG』
デザインを学びはじめると、何気なく見ていたWebサイトや広告、日常の風景、ものごとの仕組みまで、少し違って見えるようになります。この連載では、多くのWebデザイナーを輩出してきたデジLIGの講師や卒業生に話を聞きながら、デザインを通じて生まれる視点や思考の変化をたどります。これからデザインを学ぶ人、学びの途中にある人へ、小さなヒントを届けます。
こんにちは。LIGが運営するWebデザインスクール「デジLIG」運営のペイです。
「自分にはデザイナーは向いていないのかも」「センスがないんじゃないか」
デザインを学びはじめたばかりのころ、多くの人が一度は思うことかもしれません。
実際、デジLIGの講座や相談の場でも、そうした不安の声を聞くことは少なくありません。けれど、その「センスがない」という感覚は、本当に才能の問題なのでしょうか。
今回は、元LIGデザイナーであり、現在はフリーランスをしながらデジLIGの看板講座「デザイン集中講座」の講師を務めるもりぐさんにインタビュー。
デザイン初学者がつまずきやすいポイントや、「センスがない」と感じてしまう正体について、じっくりと話を聞きました。
センスをひねり出すのではなく、まず知ることから始める。その考え方は、これからデザインを学ぶ人にとって大きなヒントになるはずです。
インタビュイー:もりぐ
元LIGデザイナー。大手広告案件で培ったコンセプト立案・ビジュアル制作を強みに、Web・グラフィックを問わず幅広く手掛ける。社内での若手育成経験をもとに、デザイン集中講座の座学パートとWebサイトデザイン制作の講師を担当。2022年秋からはフリーランスとして活動しつつ、講師業も継続している。
「センスがない」と感じる正体
――デザインを学び始めたばかりの方と話していると、「自分には向いてないんじゃないか」「センスがないのかも」って不安になる人がすごく多いなと感じていて。もりぐさんは、そういう声をどう受け止めていますか?
センスって、「ひらめき」や「降ってくるもの」だと捉えられがちですが、今からでも身に着けられるものだし、その後天的なセンスでデザイナーの仕事はある程度はできると思っています。つまり、どれだけデザインを知っているかという「知識」だったり、経験の積み重ねのことですね。
そもそも、知らないものは判断できないじゃないですか。だから「自分にはセンスがない」と感じている人の多くは、才能がないというより、まだ手持ちの選択肢が足りないんじゃないかなと思っています。
――「選択肢が足りていない」というのは、すごくしっくりきます。初学者の方を見ていると、最初からオリジナルを作ろうとしてしまう人も多い印象があって。
デザインをはじめたばかりなのに、自分の頭の中だけでアイデアを考えようとしてしまう人は多いです。周りにまったく頼らずに自分でオリジナルを作らなきゃいけない、みたいに思ってしまう。
でも、デザインってゼロから何かを生み出すものじゃなくて、実際には、過去のなにかとなにかを組み合わせて作られていることがほとんどなんですよね。
Webデザインの型を知ろう
――「過去のなにかとなにかの組み合わせ」とのことですが、Webデザインでいうとそれはどういうものなのでしょうか?
そもそもWebサイトって、なにかを伝えるための媒体なんです。サービスの強みや事例、会社の住所といった「情報」を伝えたり、かっこいい、カワイイといった「印象」を伝えたり。
その中でも「情報」を伝えようとすると、見せ方が似てくる傾向があります。これがWebサイトにおけるひとつの「型」です。おしゃれなサイトは装飾や動きに目を奪われがちですが、具体的な情報の部分は同じような型に沿った見せ方になっていることが多いです。
初学者さんには、まずこの型を身につけてほしい。
――どうして見せ方が似てくるんでしょうか?
そのほうが「わかりやすい」からです。スマホアプリって説明書なしでだいたい使えるじゃないですか。なぜ使えるかというと、前に使ったアプリと操作方法が似ているからなんですよね。「こうやるとこうなるかな……? あぁやっぱりなった」みたいに。
以前見たことがある、やったことがあると、人は安心して使えるので、情報も同じように型で伝えてあげるほうがわかりやすいのかなと。なので、情報のわかりやすい見せ方は、なにかの型に集約されがちなんです。
――なるほど……。たとえばどんな「型」があるんでしょうか?
一番わかりやすいのは、ヘッダーの左にロゴ、次にグロナビ、一番右にボタンを配置するパターン。グロナビとボタンは右に寄っている。さらに言うなら、ロゴの大きさも文字の大きさも余白の取られ方もだいたい同じだと思います。これは多くのサイトに共通する型といえます。
――たしかに、よく見るパターンですね。共通の型はどうやって見つけたらいいんでしょうか?
いろいろなサイトを眺めて、100個見たときに、ある程度繰り返し出てくる表現であれば、それはあるあるの型だと思っていい。お知らせもFAQもインタビューも、だいたい似た型でできていることに気づけるんじゃないかと。
逆に、100個中1個しか見ないような表現は「それはそれ」としてインプットしておく。でも、そういったレアな表現であっても、実はWebサイトの王道の型を派生させて作られていたりします。
ギャラリーサイトに載っているサイトは斬新な表現ばかりだと思われがちですが、情報をちゃんと伝える見せ方をしたうえで、表現をぶっとばしているんです。
型を守ったままだとよくある見た目になるし、普通から離れようと型を崩しすぎると情報が伝わりにくくなる。多くのデザイナーさんがこのジレンマと葛藤していらっしゃるんじゃないかと。案件によってそのバランスを使い分けている人を見るたびに「上手だなぁ……すごいなぁ……」と思っています。
イケてるデザインを知ろう
――たくさんのサイトを見比べるとなると、ギャラリーサイトを活用するのがよさそうですね。
そうですね。型を知るのと同時に、審美眼も養っていきたいところです。
でも初学者さんは「イケてる」の見分けがつかない。そんなときこそイケてるクリエイターさんが運営しているギャラリーサイトを見てみましょう。以下のような実績のあるクリエイター・会社が選定しているサイトとか。
• S5-Style(田渕将吾さん)
• MUUUUU.ORG(ムラマツヒデキさん)
• Brilliant Design Collect(間部盛貴さん)
• me ki ki ki(株式会社メガホンさん)
• 81-web.com(株式会社TRACEさん)
※上記は一例。 他にもたくさんあります!
見るコツとしては、自分の好みはいったん置いて、「この人たちが選ぶからには、イケてる理由があるんだろうな」と素直に受け止めてみる。イケてる人の選ぶ基準をいったん信じてみてください。「このサイトはなにが優れてるから選ばれたんだろう?」と探っていくのもいいですね。そうやって見ていくことで、その人の選球眼を少しずつ自分のものにしていくんです。
――“イケてる理由”を探るうえで、チェックすべきポイントはありますか?
たくさんありますが、まずは「文字・画像・余白」を中心に意識して観察してみてほしいです。
突き詰めると、Webサイトの情報のほとんどは「文字・画像・余白」でできています。どんな書体をどれくらいの文字間、行間で組んでいるか、画像はなにをどういうクオリティで使っているか、それぞれにどれくらい余白を取っているか。
これは基礎でもあり奥義でもあると思っていて。初学者さんは装飾や演出に目を奪われがちですが、Webやグラフィックも問わず、情報を扱うデザインの上手さはこの3つに集約されると思っています。
――「文字・画像・余白」の使い方のお手本となるようなサイトの例があれば教えてください!
最近話題になっていたところだと、このサイトですかね。
装飾をほとんど使わず、「文字・画像・余白」で構成されています。そのバランスがただただすごいなぁと。法人向けに情報をしっかり見せつつ、とても美しい。個人的にもすごく印象に残ったサイトです。
――こういう素晴らしいデザインに出会えるからこそ、イケてるギャラリーサイトを見るべきなんですね。
そうですね。同じ情報を伝えるならどうせなら美しいほうがいいと思うし、ギャラリーサイトの中から「文字・写真・余白」を用いた「イケてるアウトプット」を中心にたくさん知ってほしいです。
情報はちゃんと伝えつつ、美しい。そんな事例をたくさん知ることが、デザインの守破離の「守」になるのかなと。
浴びるほど見よう
――ギャラリーサイトを見るときに、分析しましょうとか言語化しましょうみたいなことをよく聞きますが、やはりそうしたほうがいいんですかね?
もちろんそうしたいです。が、まだ初学者さんには難しいと思います。なぜなら、なにを分析したらいいかわからないから。
分析するには頭の中にデザインのチェックリストが必要なんです。何も知らない状態では分析できない。学習が進むにつれてチェックリストが増えてくるので、やっとそこでそれぞれのサイトの違いを見比べることができるようになります。
その前にまずは「なんかわからんけどいっぱい見る時期」があってもいいと思います。「いざ分析しよう!」となったときに初めてサイトを見るより、もっと前に見ておきたい。とにかく浴びるほど見てほしいです。
――たしかに。判断基準がないからこそ、はじめは「量」を優先したほうがいいんですね。
そうです。みなさんが思っている10倍、100倍は見てほしいです。ひとつのギャラリーサイトを直近3、4年まで遡って何周も見て、「見たことある」「あのときのあれだ」と覚えられるくらいに。
最初はただスクロールして眺めるだけでもいいし、移動中や休憩中に見るのもいい。これは僕がみてきた中での話ですが、初学者さんで伸びる人はいいデザインを大量に見ている人がほとんど。当然、ギャラリーサイトも見倒しています。プロ同士だって「あのサイトのあの部分」みたいに共通言語になるくらい、みんな見ているんです。
ギャラリーサイト以外では、SNSでイケてるクリエイターをフォローするのもひとつですね。とにかく良いデザインに触れる回数を増やすこと。それが、審美眼を育てるいちばんの近道だと思います。
見たものを分解しよう
――ちなみにもりぐさんはどのような見方をしているんですか?
一言で言うと「抽象化する」なんですが、このワード自体が抽象的な気がしてて(笑)。抽象化が難しい場合は、まず「分解してみる」といいのかなと。
――分解、ですか。
はい。抽象化が「構造を読み解いて、そこにある共通点や法則を見つけること」だとしたら、分解はそのための手段のひとつです。
デザインは数多くの要素の組み合わせでできているので、それをパーツごとに分けて見ていきます。構成、情報の優先順位、書体・文字間・行間、画像、余白、配色、線、装飾、アニメーション……みたいに。はじめはざっくりでもかまいません。
最初はチェックリストが少ないから細かく見るのが難しいけど、学んでいくうちに観点が増えていって、分解の精度が上がっていくイメージです。
――例として、NewsPicksさんのサイトを分解していただくことはできますか?
もちろんです。では、FVでやってみましょうか。まずは大きく分解してみます。
左側にコピーエリア、右側に画像エリアがありますね。ヘッダー部分の左にロゴ、グロナビが中央に置かれています。
ちなみに、グロナビはヘッダーの右側に寄せたものをよく見ますが、今回は中央揃えのようです。よく見るヘッダーも、ここはちょっと違うかも? というのも分解していくと気づけます。
――なるほどなるほど。
では、もう少し細かく分解してみましょう。
コピーも、たくさんの要素でできていて……
•書体
•文字間
•行間
•文字色
•文字数(単語数)
•行数
•改行位置
•他要素との距離
みたいに分解できます。多くのサイトを見比べていくと、サイトの雰囲気は文字組みだけでも変わってくることに気づけるはず。
――文字ってWebサイトにおいてすごく大事な要素なんですね。
そうなんです。さらに、パーツごとに見ていきましょう。
たとえばCTAボタンを分解すると……
•黒の長方形
•角丸
•白文字の日本語で「資料ダウンロード」
•矢印
こういった要素で作られています。
さらに細かく分解して見ていくと、それぞれのパーツの詳細を探れます。
・長方形の横・縦の長さは?
•角丸はどれくらいのアール?
•どんな黒色?
•書体は? 文字の大きさは? 文字間は?
•文字の周囲の余白は?
みたいに。どのWebサイトにもほぼ必ずボタンがあります。いろんなサイトのボタンをこうやって分解してストックしておくと、ボタンのパターンを自分でもたくさん作れるようになるはず。
さらにさらに、ボタンの中の矢印を見ても……
•どの位置にどんな大きさで置かれている?
•線の太さは? 長さは?
•どんな三角形? 大きさは?
みたいにどんどん分解して見ていけます。
――この小さな矢印まで……。
はい。このサイトは要素がそこまで多くないですが、見れる部分はたくさんあります。
デザインが上手い方は、大きい部分も細かい部分も案件ごとの雰囲気に合わせて、気持ちいいラインで揃えることができるのです。この矢印の形もサイトの雰囲気に合っているし、矢印の置かれ方も「ここかァ……!」って絶妙な位置。すべての要素がちょうどよく組み合わさって、このサイトの雰囲気ができあがっています。
分解することでデザイナーのこだわりを感じられるようになってくると楽しいですよ。
――どんなサイトでも同じように分解できるものなんですか?
できるんですが、装飾が多いサイトは見るべき要素が増えすぎて、分解の難度が上がります。だからこそ、はじめは「文字・画像・余白」を中心に見ることをおすすめしています。
思考のプロセスまで分解しよう
――なんだか、サイトの見え方が変わってきそうですね。
分解を続けていくと、今度は「それぞれの組み合わせの違いでサイトの雰囲気って変わるんだ」と気づけるようになってきます。「クールに見せるならこの組み合わせ」「上品ならこの組み合わせ」「カジュアルなら……」みたいに、狙った雰囲気にするための“おおよその組み合わせ”があるんです。
――「この要素の組み合わせがサイトを上品に見せているんだ」みたいなのがわかってくるんですね。
そうです。そして、次は「この組み合わせは、なんでこうしたんだろう?」と深堀りする。実はここも分解していけるんです。
課題を解決するまでの経緯を想像して分解していく。そうすると、「その見た目に至るまでの思考のプロセス」が見えてきて、やがて根本にあったであろう課題を察することができるかもしれません。本当の答えは作者に聞かないとわからないのですが、想像でいいので深堀りしてみる。
――さきほどのNewsPicksさんのサイトでいうと、どういうことになりますか?
たとえばさきほどのサイトは、「左側はコピーエリア、右側は画像エリア」でしたが、これは多くのサイトで使われる王道のレイアウトです。横書きだと一般的に目線は左から右に動くので、見た人は文字→画像と自然に情報が入ってきますよね。
ビジネスツールのLPだと、左側にツールの概要や強みを訴求するコピーがきて、右側の画像エリアに操作画面が映ったノートPCのモックアップがあるのをよく見ます。「このサイトは法人プランだから、よりわかりやすいレイアウトを選択したのかな?」とか想像できます。派手で複雑なレイアウトだと、理解が遅れて離脱されることもあるので。
ただこのFVはレイアウトは王道なんだけど、文字組みや画像の選定、余白感、ディティールの処理、どれもこれも美しすぎて……すごい……(語彙力)
――見た目に限らず、課題解決までの流れも参考にできると、いろいろな場面に応用が効きそうですね。
おっしゃるとおりです。 思考のフローを分解できると、ある領域で得たものを別の領域へ持ち込む「転用」ができるようになります。
このあたりまで来ると、抽象化する力、さらには言語化する力がじわじわ高まっているはず。そうなれば、一般的な型からどんどんアレンジしていくことができます。
デザイナーは、案件の制約・要件・予算・スケジュールなど多くの縛りがある中、膨大なインプットの中から組み合わせから構築していきます。その過程で「ふと、思いついた」「降ってきた」みたいなこともあるはず。
これが世間で思われている「デザイナーはセンスだ」の正体なのかもしれません。でも今回で、センスはただ降ってきたものじゃないことがわかってもらえたかなと思います。
――センスは積み重ねで身につくんだという話、初学者の方にとってすごく励みになると思います。ぜひ最後に、これから学び始める方へアドバイスをお願いします。
まずは「知ってるか」だと思うんです。それは「わかりやすいデザイン」だったり「美しいデザイン」だったり。クオリティの基準を引き上げてくれるものをいつも集めておきたいです。
よりいいものを知っていることって、いろいろなシーンで役に立つんですよね。たとえば、AI画像生成でも、いい写真をたくさん見ている人のほうがクオリティが高いものを作れます。審美眼が鍛えられると、デザイナーとしてのキャリアの選択肢も広がっていくんじゃないかと思います。
たくさん見ないと違いには気づけません。違いに気づけると「よりいいもの」がわかってくると思います。なので、まずたくさん見て、知るところから始めてみてください。
デジLIG(デジタルハリウッドSTUDIO by LIG)
Web制作会社LIGが手がけるクリエイタースクール。現役のプロから技術も考え方も学べる場所で、Webデザイン・コーディング・動画・UI/UXまで業界の第一線で活躍するクリエイターが講師を務める。未経験からプロへの道を本気で走り切れるだけでなく、卒業後もキャリアの相談にいつでも戻ってこれる、クリエイター人生に伴走するスクール。
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2026.04.20
まずは知ることから。 デザイン初学者に伝えたい「センス」のつくり方