見え方が変わると、知りたいものが増えていく。 デザインを学んで気づいたこと
河西 エリカ
デジLIG
連載『デザインの見え方が変わるとき by デジLIG』
デザインを学びはじめると、何気なく見ていたWebサイトや広告、日常の風景、ものごとの仕組みまで、少し違って見えるようになります。この連載では、多くのWebデザイナーを輩出してきたデジLIGの講師や卒業生に話を聞きながら、デザインを通じて生まれる視点や思考の変化をたどります。これからデザインを学ぶ人、学びの途中にある人へ、小さなヒントを届けます。
• 第一回:まずは知ることから。デザイン初学者に伝えたい「センス」のつくり方
こんにちは。LIGが運営するWebデザインスクール「デジLIG」運営のペイです。
連載「デザインの見え方が変わるとき」では、デジLIGの講師や卒業生に、デザインを学ぶことで生まれる視点や思考の変化を聞いています。
学ぶ前は素通りしていた電車の広告で、ふと立ち止まるようになる。なぜこのレイアウトなのか、なぜこのフォントを選んだのか、と自然に考えるようになる。デザインを学ぶ過程は、ツールやスキルが身につくだけでなく、世界の解像度そのものが変わっていく過程でもあります。
今回お話を聞いたのは、デジLIG卒業生の河西エリカさん。ホテル業界、芸能活動、モデルなど、Webデザインとは一見かけ離れたキャリアを経て、この世界へ飛び込んだ方です。
インタビュイー:河西 エリカ
日本とフィリピンにルーツを持つ。高校・大学をフィリピンで過ごした後、都内のホテルに就職。芸能活動・モデルなど幅広い経歴を経てサイト制作の実務に関わったことをきっかけにWebデザインの道へ。デジLIGにてWebデザイナー専攻とデザイン集中講座を受講。現在は制作会社にてデザイナー兼ディレクターとして勤務。
ある日たまたま声をかけられたことで携わったWebサイトが公開されたとき、「自分がつくったものが、Web上で動き、誰かに見てもらえる」ことに大きな感動を覚えたといいます。 そこからデザインを学びはじめた河西さんは、見た目の良さだけではなく、「なぜこの表現なのか」を考えることの大切さに気づいていきました。 デザインを学ぶことで、仕事の見え方、街の見え方、そして自分自身の可能性はどう変わっていったのか。今回は、デザインを学ぶ前と後で変化した視点について伺いました。
デザインとの出会い
―― もともとホテルや芸能など、Webデザインとはかなり違う世界にいらっしゃいましたよね。これまでのご経歴を聞かせていただけますか?
大学でホテルマネジメントを学んだあと、1年ほどホテルに勤めて、その後は芸能活動に飛び込みました。演技、モデル、音楽など、マルチタレント的にいろいろなことに挑戦していましたね。ただ、コロナ禍でオーディション自体が減ってしまって。オンラインでの配信活動に移っていきました。
―― そこからどうWebデザインにつながっていったんですか?
YouTubeやSNSでの発信を続ける中で、サムネイル作成や動画の編集を自分でやるようになったんです。最初はCanvaのテンプレートを使い、ひたすら作っていました。
当時所属していた芸能事務所からも、そういった制作の仕事をいただく機会が生まれて。周りにWeb関係の知り合いも増えてきた頃、ある日突然「Webサイト制作のアシスタントデザイナーをやってみないか」と声をかけてもらったんです。未経験ながら実務に関わらせてもらい、そこで初めてFigmaというツールがあることも知りました。
―― 思いがけない流れでデザインの実務に触れることになったんですね。
アシスタントとしてWebデザインに関わる中で、何か気持ちの変化はありましたか?
大きかったですね。サムネイルを作っていた頃は、見た目の良さや自分の好きな色をベースに「なんとなく良い感じ」で作ることが多かったんです。でも初めてWebサイトに関わったとき、自分が調整した余白や画像、文字の見せ方ひとつでサイトの印象が変わることを実感して。デザインってこんなにユーザーの体験に影響するんだ、と。
しかも公開されたら誰でも見られる状態になるので、達成感もまったく違いました。「もっと良いものを作れるようになりたい」という気持ちが生まれたのも、このときです。
「何が正解かわからない」
デザインを独学することの難しさ
―― そこからすぐにWebデザインを学び始めたんですか?
はい。一度独学で始めてみたんです。自分で購入した動画教材を見ながら進めていたんですが、ツールの使い方はわかるようになっても「デザインの考え方」はまた別の話だとそこで気づいて……。何が正解なのかわからないまま進んでいくしかなくて、行き詰まってしまいました。
―― それでスクールに通うことにしたんですね。
はい。「正しい方向でちゃんと積み上げていきたい」という気持ちが強くなっていました。指導してもらえる環境が自分には一番合っていると思ったんです。
―― 実際にデジLIGで学んでみて、どうでしたか?
入学してみると、他の受講生さんの制作物を見てインスパイアされる機会がたくさんありました。
「デザイナー専攻」に加えて追加で受講した「デザイン集中講座」では、プロのデザインのトレースから始まり、ペルソナ設定や参考サイトの選び方・見方を学びながら制作する過程があったんですが、他の受講生さんのデザインの考え方や要素の組み合わせ方から学ぶことがすごく多かったです。
―― どんな受講生の方がいらっしゃったんですか?
「美術部に入ってたんじゃないか」というくらい絵が上手な方もいて。自分で絵を描ける人は幅広いデザインの提案ができるんだなと思いましたし、他の方たちのデザインへのアプローチを見ながら、自分ももっと頑張ろうという気持ちになりましたね。
―― そうやって刺激を受けながら学ぶ中で、迷ったり立ち止まったりすることもありましたか?
ありました。参考サイトを見ても、なぜこのデザインが良く見えるのか言語化できず、自分のデザインに落とし込めない時期もあって。人と比べて焦ることも正直ありました。
でも、自分にとって学習や転職は、単に仕事を変えるためだけではなく「デザインを学ぶことで趣味をもっと充実させたい」「理想の生活に近づきたい」という目的も大きかったんです。だから迷ったときは、自分は何のために頑張っているんだっけ? と理想の将来像を思い出すようにしていて。
昨日の自分より少しでも前に進めていれば良い、と自分のペースを大切にしていました。
デザインは「自分のため」のものじゃない
―― デザイン学習の中で、特に印象に残っているフィードバックや講師からの言葉はありましたか?
デザイン集中講座の講師のもりぐさんから「参考サイトをできるだけ多く集めること」というアドバイスをもらったことがあります。まず参考サイトをたくさん集め、その中から良い要素を組み合わせるという練習を勧められたんです。
―― 具体的にはどんなことをされたんでしょう?
実際にもりぐさんの勧めで「mybest」のコーポレートサイトのデザインをトレースして、セクションごとのフォントサイズやジャンプ率の付け方を観察しました。最初はトレースしたフォントサイズをあえて変えずに構成を組み、その後でフォントの種類を変えたり、ジャンプ率を調整して全体のバランスを整えていく流れでした。
参考サイト:株式会社マイベスト コーポレートサイト
https://my-best.com/company
オリジナルをゼロから作るのではなく、「良いデザインの理由を理解しながら、自分なりにアレンジしていく」ことが大事なんだと気づきましたね。
―― とても地道な作業ですね。そういった学びの中で、デザインへの意識も変わっていきましたか?
なぜこのサイズなのか、なぜこの配置なのかを説明しようとすると、自然と理由を持ってデザインするようになりました。
デジLIGのトレーナーからも、「なぜそのデザインにしたのか、ちゃんと説明できるようにする」という言葉をもらっていたんです。最初に聞いたときは「たしかにそうかな」くらいの感覚だったんですが、その言葉がずっと頭の中に残っていて。
―― デザインを「説明する」という発想は、学習初期にはなかったものですか?
そうですね。学び始めはどうしても「見た目がいいかどうか」という感覚でデザインを判断してしまうことが多かったです。「かっこいい」とか、「かわいい」とか。
―― 最初は見た目の良さが基準だったんですね。
そうですね。でも、参考サイトをトレースして「なぜこの配置なのか」を考えるようになっていくうちに、デザインって見た目だけじゃなくてクライアントの課題解決でもあるので、「どういうデザインにしたからこういう課題が解決できます」と言えてこそ、仕事として成立するんだなと。
デザインには必ず意図がある、それを言語化できてこそ仕事になるという意識に、少しずつ変わっていきました。
―― その意識が腑に落ちたきっかけは?
家族や友人から案件を紹介してもらいながら、6件ほど実案件をこなしたことですね。実際のクライアントとやり取りして、決められた期限の中で制作・納品する経験をする中で、クライアントの要望と自分がいいと思うデザインがぶつかることも多くて。
そこで初めて、デザインって自分のためじゃなく相手の課題を解決するものなんだと実感しました。
スクールの課題をこなしているときとは、デザインの向き合い方や見え方がまるで違ったんです。デジLIGで講師たちから言われていた「なぜそのデザインにしたのか説明できるように」という言葉の意味が、このときようやく体感としてわかった気がしました。
「なんとなく」が通じない世界
―― デジLIGを卒業されて、現在はどんなお仕事をされているんですか?
制作会社に未経験で入社して、デザイナーとディレクターを兼任する形で働いています。
ディレクション業務が想像以上に大変で。制作を進めるだけでなく、スケジュールや品質の管理、プロジェクト全体を俯瞰して判断する力が求められる。クライアントの言葉にならない要望を汲み取る力も必要で、コミュニケーションの難しさをいちばん感じています。
―― クライアントとのやり取りでは、どんな工夫をしていますか?
クライアントの要望がうまく言葉にならないケースが結構あるので、そういうときは参考サイトをいくつか提示して「どのあたりがいいと思いますか?」と聞いたり、複数のデザイン案を作って提案したりしています。なるべくキーワードを拾い上げて、そこからすり合わせていく感じです。
「なんとなくこっちがいい」という感覚的な返答が来ることも多いので、お互いが同じゴールを向けるよう、こちらから具体的な言葉を引き出す工夫をしています。
―― チームで動く中でも同じような難しさはありますか?
一人で制作するときはクライアントと直接話せばそのまま進められますが、チームだとその要望をデザイナーやコーダーに正確に伝えないといけないですね。
ディレクターからデザイナーへ、デザイナーからコーダーへ、伝え方次第で認識のズレが生まれて手戻りが増えてしまう。「なんとなくこういう感じで」では通じない場面が、チームになって一気に増えました。
―― 実務を重ねる中で、デザインへの向き合い方は変わってきましたか?
先輩のフィードバックで気づいたんですが、クライアントの事業内容をしっかり理解してからデザインに入ると、何を伝えるべきか、どう見せるべきかという判断自体が変わってくるんです。
会社では毎朝デザインのフィードバックタイムがあって、先輩方から日々指導してもらっています。目的に沿ったデザインになっているか、ワイヤーフレームで設計した意図がちゃんと落とし込まれているか。そういった観点で毎日見てもらえるので、学習していたときの気づきが、実務の中でより深く実感できるようになってきました。
―― 社内でも社外でも、デザインを言葉にする場面が多いんですね。
そうですね。クライアントへの提案の場面でも、なぜこの表現にしたのか、どうクライアントの目的に沿っているのかを説明できると、反応がまったく違うんです。コンペで案を出すときも、こちらの意図をきちんと言葉で添えられるほうが、提案を受け入れてもらいやすいです。
学習中に受けとった「なぜそのデザインにしたのか、ちゃんと説明できるようにする」という言葉の意味が、実務の中でじわじわと体に染み込んでいく感じというか。そういう経験が積み重なっています。
街の見え方が変わった
―― デザインを学ぶ前と後で、日常の見え方は変わりましたか?
かなり変わりましたね。電車の広告を見ても、なんでこのレイアウトなんだろう、なんでこのフォントを選んだんだろうって、自然と考えるようになりました。
デザインを学ぶ前は街を歩いていてもぜんぜん気にならなかったのに、今は気になって仕方ない。UI/UX的な観点でこれはどうなんだろう、と自然と考える場面も増えました。
―― 特に目に止まるようになったものはありますか?
フォントや色はすごく見るようになりましたね。駅のホームの表示も、ゴシック体のほうが遠くから見やすいな、とか。デザインを学ぶ前は無意識に「なんか読みやすいな」と感じていたものが、今はなんでそう感じるのかを考えるようになりました。
―― 最近、デザインの視点で印象に残ったものはありますか?
伊藤園の電車内広告がすごく印象に残っていて。電車のドアガラスに貼られたステッカー広告が、特定の駅に止まると駅の広告とぴったり重なって、隠れていた文字が完成する仕掛けになっているんです。
参考:特茶のボトルにグラフが入る広告を作りました。
https://t.co/zJu1DI1hpb
―― 細部まで設計されているんですね。
こんなところまで設計されているのか、とすごく驚きました。デザインを学んでいなかったら気づかなかっただろうなと思います。
―― 今まで気にならなかった細部の意図や仕掛けが見えるようになったんですね。
ちなみに昔の自分のデザインを見返すと、どう見えますか?
最初に作ったサムネイルを見ると、フォントサイズがバラバラで、何を伝えたいのかよくわからないデザインを作っていたなと思います。フォントも配置も色も、「なんとなく作ったんだろうな」という感じが一目でわかって。今見ると、すごく直したくなりますね。
―― デザイナーとしての成長を実感できていらっしゃるんですね。
そうですね。今は意図を持って作るようになったので、制作の方向を自分で決めやすくなったぶん、スムーズに進められるようになってきました。期限がある中でいつまでも悩んでいられないので、迷ったらまず何パターンかさっと作ってみるようにもなりましたね。
―― 今後、どんなことに挑戦していきたいですか?
今はある程度決まった業界のデザインが多いんですが、デザイナーとしてもディレクターとしても、自分が興味のある領域の案件にも携わっていきたいと思っています。
それから、文化によってデザインや情報の見せ方がぜんぜん違うんですよね。日本はすごく情報量が多くてポップだし、海外だとまったく違う。そういう文化の違いをデザインの視点で実際に体験してみたいと思っています。それによって自分の引き出しも広がるんじゃないかと思っています。
見え方が変わると、もっと知りたいものが増えていく——デザインを学んではじめてわかった感覚です。
―― さまざまな経験を経てデザインの世界に入られた河西さんだからこその視点ですね。
最後に、デザインを学んでいる方へメッセージをお願いします。
インプットを重ね続けることが大切だと思っています。アウトプットはもちろん必要ですが、インプットを地道に重ねることで引き出しが増えて、アイデアの幅も広がっていく。
SNSで目にする話題のサイトや、好きなアーティストのサイト、よく食べる食品のブランドのサイトなど、自分が興味を持てるものから見ていくといいと思います。
学習中は地道な作業も多く大変だと感じることもありましたけど、めげずに続けることで、きっといいデザインは作れるようになる。デザインが上手な人はたくさんいるけれど、続けることができれば、必ず自分の引き出しは増えていくと思っています。
デジLIG(デジタルハリウッドSTUDIO by LIG)
Web制作会社LIGが手がけるクリエイタースクール。現役のプロから技術も考え方も学べる場所で、Webデザイン・コーディング・動画・UI/UXまで業界の第一線で活躍するクリエイターが講師を務める。未経験からプロへの道を本気で走り切れるだけでなく、卒業後もキャリアの相談にいつでも戻ってこれる、クリエイター人生に伴走するスクール。
https://liginc.co.jp/studioueno
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2026.06.15
見え方が変わると、知りたいものが増えていく。 デザインを学んで気づいたこと