[前編] 物語は、どうWeb体験になるのか 『IVRESSブランドサイト』における構想とリアルタイム3D表現
Shotaro Shibata
Lecamus Jocelyn
株式会社イヴレスのブランドサイト「SPIN A TALE ー 紡ぐ物語 ー」は、企業の思想や美意識を、スクロールで進んでいく物語体験として立ち上げたWebサイトです。
前編では、Laugh MindがIVRESSの理念や世界観をどのように読み解き、「紡ぐ物語」というコンセプトへたどり着いたのか。そして、その物語をUtsuboがどのようにリアルタイム3DのWeb体験へ翻訳していったのかを伺いました。
スクロールを物語の軸にする判断、Blenderによるブロッキング、ブラウザ上で成立させるための設計、ダイナミックなカメラワークによって見えてきた課題まで。ブランドストーリーがWeb体験として立ち上がるまでのプロセスを辿ります。
IVRESSの物語を、
体験として立ち上げる
インタビュイー:Shotaro Shibata
―― 今回のブランドサイト制作は、どのような背景から始まったのでしょうか。
まず前提として、IVRESSという会社は、現在IVRESS Groupとして多角的に事業を展開しながら、コングロマリット経営を目指している会社です。
そうした事業拡大のフェーズにおいて、グループとしての思想や魅力をどのように外部へ伝えていくかが重要になる中、Laugh Mindを見つけていただき、外山社長から直々にZoomでオリエンを受けるところから、このプロジェクトは始まりました。
初めましての状態から、初回で3時間に及ぶオリエンでした。笑
IVRESSはすでに、MVV、つまりミッション・ビジョン・バリューに加えて、その根底にあるSS、ストーリーやスピリッツ、そしてCIまで言語化されていました。その内容についてご説明いただきました。
IVRESSの理念や世界観を、アウターブランディングとして展開したい。そのために、粋なWebサイトとして形にしてほしい。そういったオーダーでした。
―― 初回のオリエンを受けて、IVRESSさんに対してどのような印象を持ちましたか?
最初に強く感じたのは、熱量です。そして、莫大な好奇心のようなもの。
簡単な言葉になってしまいますが、すごく真っ直ぐで、熱い会社だと感じました。
そこから、すぐにコンセプトが決まったわけではありません。設計やテーマが「紡ぐ物語」にたどり着くまでに、食事にも行きましたし、ゴルフにも行きました。外山社長の人柄、社員やクライアントとの向き合い方、会社として大切にしている価値観を、打ち合わせだけではなく、時間を共有する中で肌で感じていきました。
―― 「紡ぐ物語」というテーマには、どのようにたどり着いていったのでしょうか。
その積み重ねの中で、約3ヶ月をかけて、この世界観、このテーマでいこうと決まりました。
単にサイトを作るというより、会社の熱量や思想をどう”体験化”するか。その問いから始まったプロジェクトだったと思います。
―― そのコンセプトを、Webサイト全体のアートディレクションへ落とし込むうえで、どのようなことを大切にしましたか?
一番大切にしたのは、物語を“説明しすぎない”ことです。
伝えたいことをストーリーとして落とし込むとき、すべてを言葉で説明してしまうと、どうしても解釈の余白がなくなってしまいます。IVRESSの持つ美意識や思想は、言葉だけで伝えるよりも、暗闇、光、影、粒子、城、銀河といった象徴的なモチーフを通して、ユーザーの中に感覚として残るほうがふさわしいと考えました。
アートディレクションでは、各シーンに明確な役割を持たせながらも、ひとつの世界としてつながって見えることを意識しています。
暗闇の中にいた名もなき者が旅人と出会い、力を得て、ともに城を目指す。
最後は目標にたどり着き、それが様々な場所で繰り広げられているという流れが、IVRESSの“紡ぐ”という思想を体現しています。
―― グラフィック表現では、どのようなバランスを意識していましたか?
グラフィック面では、単にファンタジーに寄せるのではなく、企業ブランドとしての品格や抽象度を保つことも重要でした。キャラクターやモチーフは存在しますが、子どもっぽい物語にはしたくありませんでした。
色や光の扱い、シルエットの見せ方、余白、シーンごとの密度感はかなり意識し、視覚的なインパクトはありながらも、過剰に説明的にならない。コピーだけでなく、ビジュアルにおいても、見る人それぞれの解釈が生まれる余白を残すことが、このサイトならではの体験価値につながると考えていました。
―― 旅人と名もなき者には、それぞれどのような役割を持たせていたのでしょうか。
今回の物語に登場する存在たちは、IVRESSというブランドを構成する象徴でもあります。
まず、名もなき者は、可能性の象徴です。IVRESSに関わる求職者、グループ会社、クライアント、あるいはこれから何者かになっていく人たちの目線を重ねています。まだ自分の価値に気づいていない存在、まだ物語が始まる前の存在とも言えます。
一方で、旅人は外山社長を重ねて設計しています。笑 ただし、旅人は最初から特別な存在だったわけではありません。彼もまた、もともとは“名もなき者”だったはずです。何者でもなかった人が、出会いや逆境を通して、自分の意志を持ち、誰かを導く存在になっていく。
つまり、この物語において、名もなき者と旅人は別々の存在でありながら、実は地続きの存在でもあります。名もなき者の未来が旅人であり、旅人の過去もまた名もなき者だった。そこに、IVRESSが大切にしている“人や企業の可能性を見つけ、未来へつなげていく”という思想を込めています。
Webサイトをループスクロールできる構造にしたのも、その考え方とつながっています。一度最後まで体験したあとに、もう一度冒頭へ戻る。そのとき、最初に見た“名もなき者”が、単なる弱い存在ではなく、未来の旅人のようにも見えてくる。見る前と見た後で冒頭のシーンを新たな角度から捉え直せる構成にしたかったんです。
―― IVRESS Manや影、化の城には、どのような意味を込めていたのでしょうか。
IVRESS Manは、物語の中では、名もなき者たちを守る存在として登場します。困っている村に、旅人が魔法で守り神を与えるようなイメージです。ここでは、IVRESSが持つ“守る”という価値を、物語の中の象徴として表現したいと考えました。
影は、前に進むうえで必ず現れる葛藤や障壁です。迷いや衝突、不安、乗り越えるべき壁がある。IVRESSでは「逆境」というキーワードを非常に大切にしていて、逆境を全員で乗り越えるというビジョンがあります。だからこそ、影の存在を物語の中に入れる必要がありました。
化の城は、信じて目指してきたゴールが、必ずしも存在するとは限らないことを表しています。それでも、逆境を乗り越えながら仲間と歩んできた軌跡に感謝し、その経験を次の一歩へつなげられる人と共に進みたい。そんなIVRESSの思いを表現しています。
このサイトでは、キャラクターやモチーフを単なる演出として置くのではなく、それぞれがIVRESSの思想やブランドストーリーと接続するように設計しました。
定義された物語を、
リアルタイム3DのWeb体験へと翻訳する
インタビュイー:Lecamus Jocelyn
―― Laugh Mindさんが設計した物語や世界観を受けて、Utsuboさんはどのような役割を担ったのでしょうか。
物語の骨子や世界観の方向性は、IVRESSさんとLaugh Mindさんによって設計されています。
その中でUtsuboが担ったのは、すでに定義されたストーリーを、リアルタイム3DのWeb体験へと翻訳することでした。
シーン制作、カメラワーク、インタラクション、サウンドシステム、シェーダー、遷移演出、そしてブラウザ上で成立させるためのパフォーマンス設計。これらを組み合わせながら、「紡ぐ物語」というコンセプトを、実際に触れられる体験として形にしていきました。
―― その世界観をリアルタイム3Dの体験へ落とし込むうえで、まずどのような見え方を目指しましたか?
今回目指したのは、企業の哲学やブランドストーリーを、テキストや静的なビジュアルだけで伝えるのではなく、ユーザー自身がその世界を進んでいくように感じられるWeb体験でした。
暗闇の世界を進み、旅人や名も無き者、影、守り神、城、戦い、そして銀河へと展開していく流れを、単に順番に見せるのではなく、ユーザーがスクロールしながら少しずつ体験していく構造として成立させること。そこが、このサイトにおける大きなテーマでした。
スクロールを、
物語を進めるきっかけに
インタビュイー:Shotaro Shibata
―― 物語体験の軸として、なぜスクロールで進行する構成がよいと考えたのでしょうか。
Webサイトである以上、ユーザーが自然に行う行為は“スクロール”です。今回は、その日常的な動作を、ただ情報を読むための操作ではなく、物語を進めるための行為に変えたいと考えました。
クリックや複雑な操作を増やすこともできますが、あまり操作を求めすぎると、ユーザーの意識が物語から離れてしまうことがあります。今回は、ユーザーが自分のペースで進みながらも、気づけば暗闇の世界を旅しているような感覚をつくりたいと考えました。
また、スクロールを軸にすることで、映像のように一方的に見せるのではなく、ユーザー自身が物語の時間を動かしている感覚も生まれます。完全に操作させるゲームでもなく、ただ見るだけの映像でもない。その中間にある、Webならではの体験を目指しました。
さらに各シーンのインタラクションを増やしすぎるのではなく、スクロールそのものを体験の中心に置く判断をしました。そのうえで、本当に意味のある場所だけにインタラクションを設計していく。そのバランスが大切だと思います。
インタビュイー:Lecamus Jocelyn
―― その方針を受けて、Utsuboさん側ではスクロール体験をどのように具体化していったのでしょうか。
プロジェクトの初期段階では、サイトの基本構成として、複数のシーンをスクロールで進んでいく体験が想定されていました。一方で、制作側では「各シーンに固有のインタラクションを設ける」方向性も一度検討しています。
たとえば、カメラの動きは比較的固定しつつ、それぞれのシーンでユーザーが何かしら操作できるようにする案。あるいは、当初のブリーフに近いかたちで、スクロールを軸にしながら、よりダイナミックで、少し観察するように物語を進めていく案です。
最終的に選んだのは、後者でした。
7つ前後のシーンそれぞれに、異なるビジュアル、カメラワーク、キャラクター、遷移、技術的な課題があります。そのすべてを高い品質で仕上げるだけでも、十分に大きなチャレンジでした。
そこで、まずはサイト全体をひとつの物語体験として完成させることを優先し、インタラクションは本当に意味のある場面に絞って追加していく方針にしました。
ユーザーに常に何かを操作させるのではなく、スクロールする行為そのものが、物語を進める感覚になること。そこが、このサイトの体験設計における大切な軸になりました。
ラフなブロッキングで、
体験の「時間」を設計する
インタビュイー:Lecamus Jocelyn
―― まず制作の初期段階では、どこから検証を始めていったのでしょうか。
最初に行った大きな作業は、完成ビジュアルの作り込みではなく、Blender上でのブロッキングでした。
ほぼすべてのシーンについて、まずは大まかな空間構成とカメラの動きを作り、スクロールに合わせた体験のリズムを確認していきました。どこでカメラが動き、どのタイミングで新しい要素が見え、どのように次のシーンへつながっていくのか。最初の段階で見ていたのは、見た目の完成度というよりも、時間の流れそのものです。
この種のプロジェクトでは、ブロッキングは「完成形を見せるため」のものではありません。むしろ、時間や構成を設計するためのものです。
―― まだ完成形が見えにくい段階で、クライアントとはどのようにイメージを共有していったのでしょうか。
クライアントに共有する難しさもありました。ラフなブロッキングは制作チームにとっては有効でも、最終的にどのような体験になるのかを想像するのは簡単ではありません。完成時の印象は、フォグ、光、粒子、シェーダー、音、UI、ポストプロセス、カメラのイージングなど、後から重なっていく多くの要素によって決まるからです。
そこで、ある程度シーンの方向性が見えてきた段階では、Blender上でシェーダーやカメラワークを含めた映像として書き出し、クライアントに共有しました。静止画やワイヤーフレームでは伝わらない「体験の時間」を、まず映像として共有する。これにより、抽象的だった世界観が少しずつ現実味を帯びていきました。
Blenderの世界を、
そのままWebへ持ち込めない難しさ
インタビュイー:Lecamus Jocelyn
―― Blender上で作った世界を、そのままWebに持ち込めるわけではないと思います。ブラウザ上で成立させるうえで、特に難しかったことは何でしたか?
Blender上で各シーンの方向性が固まってきたあと、次に大きな課題となったのが、それをブラウザ上で動く体験として再構築する工程です。
Blenderで見えているものを、そのままWebにエクスポートすれば完成するわけではありません。ライティング、フォグ、グラデーション、粒子、マテリアル、カメラの挙動などは、リアルタイムで動くWebサイトとして成立させるために、コード側で再構築する必要があります。
―― Blender上の表現をブラウザ上で成立させるために、技術面ではどのような設計が必要だったのでしょうか。
本プロジェクトでは、Three.jsのWebGPURendererを用いたリアルタイム3D表現を採用しました。UtsuboはThree.jsを用いたインタラクティブWeb体験を得意としており、CTOのRenaud Rohlingerは、Three.jsの数少ない公式コントリビューターの一人でもあります。こうした技術的な背景があったからこそ、単なる3D実装ではなく、ブラウザ上でのレンダリングやパフォーマンス設計まで踏み込んだ制作が可能になりました。
一方で、WebGPUだけを前提にすることはできません。制作時点のiOS 18時点では、iPhoneはWebGPUに対応しておらず、WebGL環境でも体験が成立する必要があります。特にモバイルでは、VRAM、テクスチャサイズ、シェーダーコスト、読み込み時間といった制約が常につきまといます。
そのため、Blenderで制作したシーンを重い3Dデータのまま読み込むのではなく、ベイク済みのアニメーションデータや軽量なポイントデータとして扱い、ライティング、フォグ、グラデーション、粒子表現の一部をコード側で再構築しました。見た目の密度を保ちながら、実行時の負荷はできるだけ軽くする。そのバランスを探ることが、プロジェクト全体を通して大きなテーマでした。
ダイナミックなカメラワークが生んだ、
リアルタイム3Dならではの課題
インタビュイー:Lecamus Jocelyn
―― カメラが大きく動く体験では、静止画のデザインとは違う難しさもありそうです。
実際に制作していく中で、どのような課題が見えてきましたか。
最初のシーンでは、カメラの動きそのものがひとつの課題を生みました。
冒頭では、カメラは世界を遠くから見ています。しかしスクロールが進むにつれ、地面にかなり近い位置まで寄っていきます。遠くから見たときには成立していた地面の表現も、カメラが近づくとローポリ感や情報量の少なさが目立ってしまう。これは、静止画で見ているだけでは気づきにくい問題でした。
―― 遠くから見たときと、カメラが近づいたときの見え方を両立させるために、どのような調整を行ったのでしょうか。
単純に解決するなら、ジオメトリを細かくしたり、高解像度のテクスチャを使ったりする方法があります。ただ、複数シーンを持つ3Dサイトで、さらにモバイルでも動かす必要がある以上、その方法ではすぐに負荷が大きくなってしまいます。
そこで、地面のディテールはシェーダー側で補強する方向にしました。重いモデルや巨大なテクスチャに頼るのではなく、コード側の描画処理によって、カメラが近づいたときにも質感や密度を感じられるように調整しています。
この問題は、カメラが実際に動き、ユーザーがシーンの中に入っていくことで初めて現れます。遠くから見たときの美しさだけでなく、近づいたときにどう見えるかまで設計する必要がある。そこは、リアルタイムのWeb体験ならではの課題だったと思います。
メンバークレジット
Project Management:Shotaro Shibata
Web Direction:Shotaro Shibata / Minori Kaneko
Creative Direction:Shotaro Shibata / Lecamus Jocelyn
Web Design:Miyuki Uchiyama
Graphic Design:Minori Kaneko
Lead Dev:Rohlinger Renaud
Lead 3D:Zabeau Josué
Music:Lucas Fiorella
Laugh Mind:Shotaro Shibata / Minori Kaneko / Miyuki Uchiyama
Utsubo:Lecamus Jocelyn / Rohlinger Renaud / Zabeau Josué / Lucas Fiorella
90日限定 全文公開中
2026.07.17
[前編] 物語は、どうWeb体験になるのか 『IVRESSブランドサイト』における構想とリアルタイム3D表現