「いいな」を言葉にするために。 デザインを学び、教え続けた10年
成田 大河
デジLIG
連載『デザインの見え方が変わるとき by デジLIG』
デザインを学びはじめると、何気なく見ていたWebサイトや広告、日常の風景、ものごとの仕組みまで、少し違って見えるようになります。この連載では、多くのWebデザイナーを輩出してきたデジLIGの講師や卒業生に話を聞きながら、デザインを通じて生まれる視点や思考の変化をたどります。これからデザインを学ぶ人、学びの途中にある人へ、小さなヒントを届けます。
• 第一回:まずは知ることから。デザイン初学者に伝えたい「センス」のつくり方
• 第二回:見え方が変わると、知りたいものが増えていく。デザインを学んで気づいたこと
こんにちは。LIGが運営するWebデザインスクール「デジLIG」運営のトラです。
デザインを学びはじめると、それまで感覚で見ていたものに、理由や構造が見えるようになります。
フォントの選び方、余白の取り方、情報の優先順位。知識が増えるほど、なぜそのデザインがそう見えるのかを、少しずつ説明できるようになる。一方で、「こうすれば伝わる」という型が見えるほど、自由につくることが難しくなる瞬間もあります。
今回お話を聞いた成田大河さんは、2016年にデジLIGの1期生としてデザインを学び、卒業後すぐにトレーナーに就任しました。大手メディア企業でエンジニアとして働きながら、約10年にわたって受講生を指導しています。
教える立場になった現在も、デザインの理論や歴史を学び、写真やデッサン、抽象絵画に取り組み続けている成田さん。学ぶことで、デザインの見え方はどう変わったのか。型と自由、感覚と言葉のあいだで、なぜ今もデザインを追い続けているのかを聞きました。
インタビュイー:成田 大河
大手メディア企業 エンジニア / デジLIGトレーナー(約10年)。2016年のデジLIGのWebデザイナー専攻を卒業後すぐにトレーナーに就任し、各STUDIOで指導を担当。複数のニュースメディアのプロジェクトに従事しながら、現在もトレーナーとして現場に立ち続けている。
型が見えるほど
自由につくることは難しくなる
―― 成田さんは、デザインを学び、教えることを約10年続けていますね。今、デザインに向き合うなかで感じていることを教えてください。
自分の頭の中にあるものを形にしていく作業が、やっぱり好きなんですよね。
ただ、デザインを深く学んでいくと、女性向けならこのフォント、高級感を出すなら余白はこのくらい、という「型」が見えてくる。そういう「決まっていること」が積み重なるほど、どこか面白くなくなっていく感覚もあります。
―― 学ぶことで見えるものが増える一方で、自由につくることが難しくなっていくんですね。
そうですね。課題解決だけに振り切ると、みんな同じアウトプットになってしまうんじゃないかと思うんです。
手癖を排除して、多くの人が「いいよね」と思えるデザインをつくることも必要です。でも、それは本当に面白いのかという問いが、ずっとあって。
―― デザインの理論や方法を知ることと、自分の感覚を信じること。そのあいだで揺れ続けているんですね。
そうなのかもしれません。学べば学ぶほど、簡単にはつくれなくなる。でも、知識や経験が積み重なることで、以前とは違う見方ができるようにもなっていく。その変化を面白いとも感じています。
デジLIGの1期生として
クリエイター人生をスタートさせた。
―― 成田さんはデジLIGの1期生ですが、デザインを学ぶ前はどんなお仕事をされていたんですか?
もともとは経営コンサルの会社で働いていました。仕事を進める中で、伝え方やビジュアルの重要性を感じ始めて、デザインを一度しっかり学んでみたいと思うようになって。
―― デジLIGのことはどうやって知ったんですか?
もともとLIGブログが好きでよく読んでいたんです。そんなLIGが運営するデジLIGの募集を見つけて、入学を決めました。2016年のことです。
実際に入ってみると、周りにも自分と同じようにLIGブログが好きで入学した人が多くて。LIGへの熱量がある人が集まっていた感じが楽しかったです。
―― デジLIGでの学習環境はどんな雰囲気でしたか?
もう10年前になりますが(笑)、当時はアットホームな雰囲気が特徴のスクールで、全体的に肯定してくれるトレーナーが多くて、のびのびと学べる環境でしたね。
LIGのオフィスでLT(ライトニングトーク)会が開かれていて、身近にあるいいデザインを紹介し合う会に受講生も参加できたり、懇親会も頻繁にやっていたり。LIG社員と受講生の距離も、とにかく近かったんです。
―― 当時の学習で、印象に残っていることはありますか?
一度だけ、自信が崩れた経験がありました。とあるトレーナーに印刷物をつくる課題を見ていただいたとき、それまでそういった指摘を受けてこなかった分、「これでいける」と思っていたんですが、全体的に見直しが必要だということになって。
ターゲットやコンセプトといった、デザインの前提から問い直す必要があったんです。誰に何を伝えるのかが先に決まっていないと、レイアウトも何も決められない。そのことを、そこで初めてはっきり意識しました。
―― 熱量ある環境の中で学びながら、デザインの難しさにもぶつかったんですね。卒業後はエンジニアとして就職されたんですよね。
はい。当時はデザインもコーディングもどちらも身につけたくて、両方できる環境の会社に飛び込みました。今も同じ会社で、複数のニュースメディアのプロジェクトに従事しています。
教える相手は全員後輩
受講生の熱量が、トレーナーとしての原動力になる
―― デジLIGを卒業後すぐにトレーナーになられたとのことですが、きっかけはなんだったんですか?
大学で理科の教員免許を取っていたということもあって、人に教えることへの関心は前からあったと思います。
デジLIGでは1期生だったので、卒業が近くなるにつれて後輩がどんどん入ってきて、新しく入ってきた子たちに自然と教えながらやっていたんですよね。それがすごく楽しくて。卒業後もトレーナーとして関わらせてもらうことになったんです。
―― 全員後輩ということですね! もともとコミュニケーションや人を導くことは得意だったんですか?
いや、実は正反対で。僕、コミュ障なんですよ。話すことが苦手で。コンサルの仕事も、得意だったというよりは必死にやっていた部分がかなりあったんです。
でも教える立場と教わる立場があると、自然と話せる場が生まれるんですよね。人は本来、「誰かに何かを話したい」という欲求を持っているんじゃないかと思っていて。
最近感じるのは、自分のなかのどこかにある寂しさを埋めるために、ずっとやってきたのかもしれないということ。 だから人と関わり続けることがやめられないんだと思います。
―― ……かなり踏み込んだ自己分析ですね。ちなみに成田さんが思う、トレーナーとしての強みって何ですか?
現場で実際に手を動かし続けているからこそ、受講生に対して説得力を持って伝えられることがあって。今の現場で起きていることをそのまま持ち込めるのが、自分なりの強みだと思っています。
―― 実際に受講生に指導する中で、大切にしていることはありますか?
まずは受講生の目標を聞くようにしています。未経験からのクリエイティブ職への転職は正直厳しい市場なので、転職を目指している方には現場の基準で作品を見て、厳しくフィードバックするようにしています。
いざ転職活動で困らないよう、早い段階から現場のレベルで伝えることが大切だと思っています。
―― フィードバックで意識していることはありますか?
どんな目標の方にも共通して意識しているのは、段階を踏むことですね。まずレイアウトがどうか、次に情報の優先順位がついているか、それが整ってきたらフォントの選び方へ、最終的にはバランスの話へ、といった具合です。
―― 多くの受講生を見てきた中で、伸びていく人に共通することはありますか?
謙虚であることですね。フィードバックに落ち込んでしまうのではなく、それを次への材料として受け取れる人ほど伸びが早い。あとは、自分の作りたいものに対して素直に向き合えているというか。そういう人は本当に変わるのが早くて。
―― なるほど、謙虚さが大事なんですね。ちなみに他にも伸びていく人に共通することはありますか?
STUDIO(校舎)に来る頻度だと思います。デジLIGはSTUDIOに通うこともオンラインで学習することもできるんですが、STUDIOにはトレーナーが常駐していていつでも質問できるうえ、質問回数も無制限なので、来ると強制的に学習環境が整いますね。
学習に時間をかけることにもなるし、オンラインだとどうしても質問できる時間が限られて何度も見てもらうのが難しくなってしまうので、その差は大きいですね。
―― 逆に、どんなことでつまずく受講生が多いですか?
デジLIGは複数のトレーナーに何度でも自由に相談できる環境なので、フィードバックをもらう機会が多い反面、人によっては聞きすぎて取捨選択できなくなってしまうことがあって。
自分の中に作りたいイメージがある人には「まず全部出し切ってみて」と伝えて、そこから削っていく。頭の中にあるものをとにかく全部デザインに落としてみて、そこからターゲットや印象に合わせて整理していくイメージですね。たとえばこんな具合です。
•ターゲットに合わせてフォントを細くするか太くするか
•出したい印象に合わせて余白をどう取るか
•高級感を出したいなら引き算、ポップにしたいなら足す など
―― 逆にイメージがない人にはどう声をかけるんですか?
まず自分が最近一番いいと思ったサイトを真似して作ることをすすめていますね。心が動いたものを分析しながら真似することで、感性が磨かれていくので。
あわせて相性の良いトレーナーを決めてもらい、継続して壁打ちをすることで、前回のフィードバックを踏まえて今回はこうしよう、という組み立てもできるようになります。
―― なるほど、成田さんなりの指導のスタイルが見えてきました。ちなみに、長く指導を続けてこられたエネルギーはどこから来るんでしょう?
やる気のある受講生を見ると、こちらもモチベーションが上がるんです。
印象的だったのが、過去にも仲間を巻き込みながら自主制作にも積極的に取り組む受講生がいて。そんな子の熱量に引っ張られる形で、その子の卒業制作で撮影を手伝ったことがあるんですが、海鮮居酒屋の全メニューを端から撮影しながら食べ続けて、また撮影して——ということを繰り返したことがあって。
海鮮居酒屋「まぐろ大谷」
https://maguro-otani.com/
これはかなり楽しかったですね。受講生の純粋な「作りたい」という気持ちに、自分も一緒に乗っかっていくような感覚というか。
―― 受講生のプロジェクトに、トレーナーとして関わるというより、一緒に当事者として動いていたんですね。
まさにそんな感じでした。受講生と一緒に何かをつくるのは、指導とはまた違う楽しさがあって。
また別の機会には、受講生にデザインを担当してもらい、自分がコーディングを担当した採用サイトの制作もありました。実はこのサイト、修正が何度も重なる中でも受講生が主体的に動き続けて、その熱量に引っ張られる形で僕も最後まで走り切れたんです。熱量を持って仕事に向き合うことは、しんどいけれど楽しいんですよ。
産経デジタル 採用サイト
https://www.sankei-digital.co.jp/recruit/
感覚を言葉にするために、
手を動かし続ける
―― 感覚で捉えているデザインの良さを、言葉にする難しさもありますか?
ありますね。言語を超えたところを作っているはずなのに、言語化に落とし込まなければならない。その矛盾がずっとあるんです。それでも非言語な部分を追求していきたいけれど、そのためにこそ語彙が必要で、語彙が増えなければ非言語の部分も伸びない。
一流レストランで料理の説明を受けてから食べると美味しく感じるように、デザインも背景やコンセプトを言語で伝えることで、受け手がその価値をより深く受け取れるようになる。言葉と作品が、相乗効果を生むんです。
―― 言葉を知ることで、デザインがより豊かになっていくんですね。語彙を増やすために、実際に何かやっていることはありますか?
デザインの理論や歴史を学んでインプットしたり、写真やデッサンで手を動かすことで、感覚でしかわからなかったことが言葉になっていく感覚はあります。
教える立場としてデザインを見るときも、「重心が下に来るから安定して見える、だからこっちのほうがいい」というように、理由を添えて受講生に伝えられるようになりました。
―― 写真も絵もデザインもトレーナーとしての活動も、全部つながっているんですね。
そうですね。今は抽象絵画に挑戦しているんですが、デッサンを積み重ねるほど物の形が崩せなくなってきて。もともと自由に描くことが好きだったのに、学ぶほど難しくなる。そこに今、ぶつかっています。
―― 「デザインを学ぶほど型に縛られていく」という感覚と、まったく同じですね。
学べば学ぶほど難しくなる。でも積み重ねるほど、作品の背景や意図を言葉で伝えられるようになっていく。その変化を楽しみながらやっています。
実はデジLIGの同期の友人と一緒にデザイン会社のような活動も始めようとしていて、学び続けることで可能性が広がっていく感覚があるんです。
Taiga | 写真家 大河
https://taiga.art/
10年目が語る
デザインを追い求め続ける理由
―― 10年間デザインと向き合ってきた今、どんな景色が見えていますか?
知れば知るほど、新しく何かを作ることが難しくなっていく、という感覚はありますね。でも同時に、積み重ねてきたものが感性として自分の中に染み込んでいる実感もあって。
昔作ったものを見返したときに「なんか下手だな」と感じることがあるんですが、それって自分が成長した証拠でもある。その実感が、学び続ける楽しさになっているんです。新しいことを学ぶことへの抵抗感が、10年経ってもまったくないんですよ。
―― ここまでのお話を伺って、改めて成田さんにとって「良いデザイン」とは何か聞かせてください。
パッと見て「いいな」と思えるもの。それが、いいデザインだと思っています。
ターゲットやペルソナを決めて、クライアントに論理的に説明できることは必要です。でも、それがパッと見て良いと思えるとは限らなくて、クライアントからの修正を重ねるうちに、当初考えていた良さが少しずつ失われていくこともある。
―― 自分の感覚と、言語化を求められる現場とのあいだで、葛藤し続けているんですね。
はい。言語を超えたものを作ろうとしているのに、言語化を求められる。そのジレンマのなかで、それでも非言語な部分を追求していくために、語彙を増やし続ける。たぶん、そういうことなんだと思います。
それは、難しさでもあり、面白さでもあるんでしょうね。
―― 教える側でありながら、今も自分の手で形を崩しながら学び続けているんですね。成田さんが「そうあり続ける」理由は、その言葉のなかにある気がします。
デジLIG(デジタルハリウッドSTUDIO by LIG)
Web制作会社LIGが手がけるクリエイタースクール。現役のプロから技術も考え方も学べる場所で、Webデザイン・コーディング・動画・UI/UXまで業界の第一線で活躍するクリエイターが講師を務める。未経験からプロへの道を本気で走り切れるだけでなく、卒業後もキャリアの相談にいつでも戻ってこれる、クリエイター人生に伴走するスクール。
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2026.08.20
「いいな」を言葉にするために。 デザインを学び、教え続けた10年